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関根教授の事件簿  作者: 黄印一郎
馬が”合わない”
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 いや、まあ、さすがの俺も世の中で行われるありとあらゆる種類のテロ行為に全て巻き込まれた経験があるわけじゃあなし、これまでバスジャックにも乗り合わせたことは、たまたまなかった。船とか飛行機とかだったら結構あるんだけど。


 今現実に目の前でゴツくて硬くて黒光りするソレ――拳銃を構えてる輩を見ていると、なんだか陸に上げられた魚のように見えてきた。魚の鮮度を測るには先ず眼球の透明感を見る物だけど、そういう視点だとやつらの目は既に白く濁っている。もう駄目だ。腐ってやがる。


 今日は何となく締め鯖食べたいな、なんて発想が浮かぶのは、やつらの行動から受ける印象が、ハイジャックにも慣れた俺にとっては鮮度を欠いた物だからだろう。鯖は傷みやすい。そしてその鯖を何とか日持ちさせる為に生み出されたのが締め鯖だった。


 こいつらが起こす程度の事件では、俺に与えるインパクトが足りない。もっと、もっと大きな、深いインパクトが欲しい。ディープインパクトが。


とは言え、個人的にはその後のウオッカの方が好きだった。やっぱり牝馬のダービー制覇と言うのは目新しさがあって印象に残る。別に史上初、ってわけじゃなかったそうだけど、それでも話題の新鮮さがあった。


 それに比べて、目の前の男たちの行動には今ひとつ新鮮さが足りない。ありきたりだ。


 それでも、今日はなんだか長引くんじゃないか、と思うのは、ハイジャックってやつは長引くもんだと相場が決まっている、という事もあるけれど、やつらの行動が相当にこなれているにもかかわらず、携帯電話を取り上げたり、こちらがこそこそと外部へ連絡を取るのを妨げる様な動きが無かったからだ。


犯人たちは、ばれる事を前提に行動している。そして、それに対する犯人たちの緊張は薄い。世間からの注目を集める事への興奮も、警察という脅威に対する脅えもない。そういう所に玄人っぽさを感じると、これまた俺も人質の玄人っぽく分析してみるわけだ。


 運転手に高速へ乗るように指示を出し、同時に乗客はバス後部の座席へと移動させる。人質――犯人たちにとっての監視対象でもある――を一ヶ所に纏めて、自分たちは前列にふんぞり返る。


そういう小悪党みたいな真似をして見せながらも、どちらか一方が、常に俺たちの様子を伺っている。時折ちらと窓の外に視線を遣るのは、警察による道路封鎖が行われているかどうかを確認しているんだろう。そしてもう一方は、運転手がきちんと進路を取っているか、じっとりと湿った視線を送っている。海外のハイジャック犯とかがたまに見せる、こなれた分担作業だ。少人数による全方位警戒行動。戦力の最小単位としての2マン・セル。何らかの訓練を受けたことがある、という証だ。


 やつらが行動を起こしてから、まだ十分程しか経っていない。ついさっきゲートをぶち破って突入した高速道路には、もちろんまだ一般車が走っている。とは言え、バス会社の方にも警察の方にも、こういう事態に対する備えがあったはずだし、もう気が付いて居るはずだった。


 今日は日曜日。こんな日に道路を封鎖せにゃならんとは。封鎖する警察の皆様も、渋滞の憂き目に遭う家族サービス中のお父さん方も、ご愁傷様です。


 そして今日が日曜と言うことは、明日は月曜日。当然俺も出勤しなきゃならんが、このままだとろくに睡眠も取れずにそのまま出勤する羽目になるんじゃなかろうか。


身を寄せ合う乗客の間で、これは間の悪いところへ居合わせたもんだと俺がまたもや溜息を吐きそうになっていたら、突然、乗客の一人が立ち上がった。見れば、今日の俺の頭痛の種だったご夫婦の、旦那の方じゃないか。


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