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所詮会釈は会釈、足を止めることもなく俺は先に進む。別に子供じゃあるまいし、ちょっと偉そうにしたからって文句を言ったりしない。そんな反骨精神とはもう十年は前におさらばしてる。
それでも、初対面の人間の前で偉そうにしているっていうのは、どうにも謙虚さが足らないように思われてならない。
確かに偉い人、ってやつには威厳が必要だ。それがないと、どんなにすばらしい事を言っていようと、周りの人間が耳を貸そうとはしない。自分の話を聞かせるために、先ず威厳があるように見える振る舞いを身につけないといけない。
けれど、周りの人間がみんな自分を持ち上げてくれるからって、その状況にあぐらを書いているようじゃ、人間として成長がないんじゃないですか? それじゃあ、退職した後に苦労しますよ、なんて言ってやりたい。
家で日がな一日、奥さんの前でだけ偉そうにしているようじゃ、夫婦生活も破綻しますよ、って言うのはちょっと言い過ぎか。なんだかんだ言って、奥さんも離婚届に書き込んで懐に忍ばせているのかもしれない。そして定年退職と同時に、ズパッと気持ちよく切り出すのかもしれない。とは言え、熟年離婚は大抵の場合色々ともつれる。
まあそんな面倒な話じゃない。要するに、教師が偉そうに振る舞うと生徒は反発するけど、教師が偉くないと生徒からはなめられる、ってこと。バランスが大事なのだ。切り替えが大事なのだ。
おっさん、というには若干はばかれる紳士に見えるあのおっさんは一体何者なのだろうか。と考えてみたって、そんな事俺に分かるはずもない。俺がそれを知る方法なんて、せいぜい仲良くなって本人から直接話を聞くぐらいしかない。そして俺は出来るだけああいう感じの人間とは関わりたくない。仕事でも、そしてプライベートならなおさら。
どうせここですれ違っただけの人達だ。今後会うこともあるまいし、そんな事を気にしていても仕方がない。訪れた不快感を、頭を軽く振ることで振り払う。坂を下りきれば、駅はすぐそこだ。橋を渡ると、タクシー乗り場を無駄に広く取ったロータリーが見えてくる。せいぜい二台ぐらいしか乗車待ちしてないのに。新興住宅地の真ん中の駅、というのはだいたいこんな感じ。
これから発展するだろう、と思って作ったは良いけれど、分譲住宅が立ち並ぶ近辺に一体タクシーを使ってまで行かなきゃならない何があるっていうのか。その辺を考えるのが都市計画、ってやつじゃないかと、小役人共に小言を垂れたくなる。
駅前にはコンビニと本屋があれば最低限それで良い。銀行ATMがあればなおさら良い。ロータリーよりも、駐輪場が広い方が良い。そう言うわかりやすいもんだ。
財布をピッ、と押し当てて、電子パスで改札を抜ける。パスケースを別に持ち歩く必要がなくなって便利になったは良いけれど、財布を無くしたら金も定期券一度に無くなって、帰ることも出来なくなる。一度それで会社に泊まる羽目になり、次の日に妻に迎えに来て貰った事があって、それ以来財布の扱いには注意してる。
地下通路を渡って向かいのホームに移動して、ベンチに座り、空やら自販機の品揃えやらをぼんやり眺めて居ると、改札口をさっきの熟年夫婦が這入って来るのが見えた。驚いたことに、奥さんは袂から、旦那の方は鞄のサイドポケットからおそろいのスマートフォンを取り出して、改札機に翳して入場してくる。どうやらスマホの機能をしっかり使いこなしているらしい。
何なんだあのハイテク夫婦は。
俺はまだガラケーだというのに。




