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関根教授の事件簿  作者: 黄印一郎
馬が”合わない”
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 日本のサラリーマンの懐具合ってやつはなっかなか厳しい。


 というのも、日本人は貯金が大好きだから、というのは昔の話だけれど、それでも家賃あるいは住宅ローン(マイホームにはちと頭金が足らんけれど)、自動車ローン(妻が買い物に使うだけだけれど)学資の積み立て(子供はまだいないけれど)、保険(未だに下りたことはないけれど)、年金(天引きだけど)、企業年金(これも天引きだけど)。


 それに、やっぱり貯金。


 贅沢しようにも、使う前に使い道が決まっちまう物がたっくさんある。


 政府はこの状態を何とか解消したくて=市場の金回りを良くしたくて、個人向け国債だの、新興企業市場の開設だの、貯金じゃなくて運用に回しましょう、なんてキャンペーンをもう10年はやっていて、それでもまだまだ日本人には馴染んでいない。


 そんなわけで、俺もそういう資産運用に手を出したりしないで、ほとんど妻に任せている。


 まあ、何が言いたいのかというと、俺の財布は完全に妻が握っていて、毎月の僅かな小遣いもほとんど昼飯と飲み代に代わっていく、ということ。


 月に3万円。これが俺の生命線。


 俺だって馬鹿じゃない。給与明細にプリントされた金額の中から、一体どのくらいがそういう貯蓄方向に割り振られていて、その他生活費がどれくらい必要で、その残りを妻がどのくらいへそくりに回しているのかだって、考えてみればすぐに分かる。


 けどそれを口にしないのも男の甲斐性、てやつ。言わないこと自体が“信じてるよ”っていう意思表示になってる、はず。


 まあそれはともかく、月3万なんて、上司はともかく毎週末同期や後輩と飲みに行ったりした日には、あっという間に無くなってしまう。


 とは言っても、俺を誘う度胸のある=突発的緊急事態を楽しめる人間なんて限られているから、そんなことは杞憂に過ぎないのだけど。


 それでもやっぱり3万円は厳しい。具体的には、意気込んで出てきたは良いものの、色々考えると結局動物園ぐらいしか一日過ごせる場所が無いぐらいには厳しい。


 もっとはっきり言うとキリンさんに餌をやって飯を食ったら帰りの電車代ぐらいしか残らない。


 いや、それは言い過ぎとしても、財布の中身を全額使い果たすわけにもいかない。ほんの少しずつでも積み立てておかないと、来月には結婚記念日が迫っている。


 “それほど高価な贈り物は求められていないはずなのだけれど、それでもある程度奮発して見せるのが男ってもんでしょう”というレディ・ファーストの仮面を被ったフェミニズムの振りをするコマーシャリズムに騙されてやるのも男の仕事。そんなにたくさん金を使うところには行けない。


 と、まあそこでそんな俺もひらめいちゃったわけだ。


 そうだ、競馬場、行こう、って。


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