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関根教授の事件簿  作者: 黄印一郎
馬が”合わない”
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 これまでの人生で、普通に生きてさえいればまずあり得ないような事態に遭遇したことは、一度や二度じゃない。


 それは例えば、何の気なしにバスに乗ったら何故かそのバスに爆弾が仕掛けられていて、その爆弾がバスの速度を落とすことで爆発する事が明らかになって降りられなくなったり、豪華客船で妻と優雅にディナーとしゃれ込んでいたら、やっぱりその客船に爆弾が仕掛けられていて尚且つテロリストが忍び込んでいた上、その客船が石油コンビナートへ突っ込んだりとか。


 その他数え切れない程の事件が起こったわけだけれど、そのほとんどが碌なもんじゃなかった。


 時たま、ではあるけれど、面白いこともあるけど。


 学生時代、コンビニのバイトでレジ打ってたら目の前でカップルの男の方がいきなりプロポーズしたりとか。


 女の方が頷いて、店内の客が一斉に、わっ、て拍手したり。


 やっぱ良いもんだね。でももうちょっと場所考えろよとも思う。


 レジ混むから。


 おおよそそんな事件に遭遇しやすい人間は、奇運を持っている、なんていう風に言われるそうだけど、俺の場合それは奇運なんてものじゃなくて、どちらかというと不運に属すると考えたい。


考えたいのだけれどこれまで大規模テロ事件の最中であっても精神的な苦痛以外、肉体的にも物的にも仕事のスケジュール上でも損失を被ったことはないし、その精神的苦痛も回を重ねるごとに“またか”と慣れてきて、今では誰よりも――下手をすればテレビの前で手に汗握って状況を覗う視聴者よりも――落ち着いているぐらいだ。


 ちょっとしたアトラクション感覚、てやつ。


 加えて、取引先を接待する席上でそういう経験を披露すると先方の食いつきが良かったりして上司の覚えもめでたく、微妙に役に立ったりするもんだからタチが悪い。


 どちらかと言えば幸運なのかもしれない、と考えてしまう自分もいる。


 そんな俺は職場で、ジョン・マクレーンなんて呼ばれている。


 女子社員からは、可愛く、ジョン。


 後輩からは、ジョンさん、だ。


 一体俺はどこの国の人なのかよく分からなくなるが、どうせ同じジョンなら、ジョン・コルトレーンが良かった。けど、俺は別に名サックス・プレイヤーってわけじゃないから仕方がない。


 それでも、マクレーンはいただけない。俺が外回りに出ても誰も付いてきたりしない=相棒はいないし、ナカトミビルに偶然居合わせたこともない。


 チョイ悪ワイルド系のファッションでもないし、ベレッタやシグを振り回したりしないし、『しぶとい野郎だ』なんて吐き捨てる凶状持ちのテロリストが知り合いにいるわけでもない。


 『サイモン曰く……』なんてのたまってる場合でもない。


 ましてや年々生え際が後退したりなんかしていない。


 やっぱり俺は世界一不幸な男なんかじゃない。


 けれど残念ながら、豪華客船の一件で俺がそういう奇運持ちだと知れて以来、妻と共に外出する機会は極端に減ってしまった。


 いや、決して夫婦仲が悪いわけではなくて、豪華客船の一件の後は吊り橋効果とかその辺の心理的な要素もあいまって燃え上がっちゃったりとかもしちゃったわけなのだが、それでも休日に連れだってどこかへ出かける、となると危機感が勝るのか、誘ってもしばし考えた後で断られる事が多くなった。


 そうなると、俺としても誘う前に断られる事を見越して気後れしてしまう。


 すると休日は家に居てごろごろするか、あるいは近所のパチンコにでも行くかぐらいしかやることがなく、さりとて休日に家でごろごろしているだけでは夫婦というものは成り立たず、かといってパチンコの景品を持って帰っても妻からは白い目で見られるわけで。


 『もう醤油は5本ぐらいストックがあるんだけど』、てなもんです。


 『もうぬいぐるみが要る歳じゃないんだけど』、とは言われないけど。


 それで一体どうしたものかと考えあぐねた俺は遂に決意したわけだ。


 まあ、一人でそのへんをうろうろすることにしただけなのだけれど。


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