第三話:異郷の地
『ネロア=トランス…』
老人は記録用紙に書かれた少年の名をつぶやいた。
『何故その若さで不老不死の試験を?』
もちろん老人は受験希望者に辞めさせる権利は全く持ってないし、上から受験理由を問えとも言われていない。
ただ単に個人的に気になっただけであろう。
ネロア=トランスはさして考えずに答えた。その顔はどこか輝きに満ちている。
『俺には夢があるんだ』
『夢?』
『そうさ。この世界の全てを渡り歩いて世界地図をつくる。それが俺の夢だ』
『やめとけ』
ネロアのことが気にかかったのであろうか。先ほどからそこにいたディオルガがぼやいた。
『確かに不老不死になりゃあできることかもしれねぇ…だがこの試験には生死がかかってんだ。ここで死ねば元も子もねぇよ』
『……』
ネロアは黙った。
『てめえのようなガキにその覚悟はあるのか?』
『てかオッサン誰?』
『な…オッサンだと…』
よほど不本意だったのであろう。ディオルガは苛立った。
『ガキ。俺様はこう見えて25だ…』
『え!嘘でしょ…』
確かにディオルガの髭が濃く貫禄が備わっている顔は35歳以上過ぎているようにも見える。おまけに髪はボサボサだ。
『更にこの民族衣装を見ても俺がいかにすごいやつかわかっていないようだな…』
『そんな民族衣装なんか見たことないよ』
『なら教えてやろう。この民族衣装は俺らハンリー一族を示すものみたいなものだ。ハンリー一族はここよりさらに北のハン二ル山からワン草原を支配している狩猟民族だ。その歴史は…』
『わかったわかったよ…えとつまりすごく有名な一族ってことなんだろ?』
ネロアはやや合わせたように言った。
『どうやらわかってくれたようだな…にしてもハンリーも知らんとはどこの出身だ?』
『サーモ村だよ』
『どこだそこ?初めて聞いた村だな…』
『サーモ村というのは…』
ネロアとディオルガのやりとりを聞いていた老人が不意に説明しだした。
『サワラ砂漠の西の方じゃ』
『はぁ?おい待てよサワラ砂漠の西に人が住むような場所があんのか?しかもここまでたどり着くのにかなり時間がかかるぞ』
ディオルガが不審がるのも無理はない。サワラ砂漠はここからとてつもなく離れている場所で、しかも砂嵐が毎日のように起こり、猛毒を持った蛇やら蠍やらその他危険な動物がたくさんうろついている地域としても有名である。
そこからここまでの距離はディオルガの故郷ワン草原から試験会場のラクタリアル山までの距離の10倍はある。
ちなみにディオルガはワン草原からラクタリアル山までの距離を3日で来たから、ネロアは30日以上もかけてここに来たことになる。
その道中では戦争などに巻き込まれる可能性まである。
いずれにせよネロアは困難を乗り越えてここにたどり着いたことになる。