4
部屋は整えられ、飲食物の種類も申し分ない。召使達はよくやってくれたといえるが、彼女に関することは何から何まで私がやりたくもあり苛々とする。しかしこれらすべて一人でやろうと思えば自分が何人いればいいものやら想像もできない。畑を耕したり家畜を育てたりするよりは、近くに仕えることのほうがよりいいのだから、ここは我慢だ。
彼女は体を赤くしたまま、足を伸ばしくつろいだ様子で座っている。炭酸水は断られ、それではと水菓子を差し出せば飲み物がいいという。果実水は気に入ったようだ。すぐに飲みきってしまう。ケケテルをもう一度進めてみれば、今度は受け取ってくれた。物珍しげに眺め、一口、二口と齧る。牙もずいぶん小さい。これでは噛み千切るのは難しいだろう。私が噛んで口移しをしてもいいが、小さな口が懸命に動いている所はいつまでも見ていたい可愛らしさでこれもまたいいものだ。果物は好いているらしいので、今度は皿ごと手に取り、いつでも渡せるよう待機した。
「あのー……なにがどうなってるんですか?」
どうといわれても、もっと食べて欲しいだけなのだが。もう腹は膨れたのだろうか。この体の大きさから考えても小食すぎるように思う。
少し気分を変えればまた食べられるようになるかもしれない。少し話をするついでに、名前を聞いた。
「そうですね……。なんとお呼びすればよいか伺ってもよろしいでしょうか」
「高橋万理歌です。万理歌って呼んで下さい。
あの、あの、なんだか色々……してくださってありがとうございました」
頭をカクンと前に動かす。首がもげたらどうするのだ。はらはらしてしまう。
「マリカ……マリカ。歌の響きがありますね。美しい名前だ」
名付け親になれないのは残念だが、小鳥の歌声のようで彼女によく合っている。
「万理歌は、よろずの、ことわりの、うた、という字を書くんです。なんで歌、わかるんですか?」
「マリカのいたところでは名前に深い意味をつけるのですね。
先ほど言葉がわかるようにとお付けしたその頭飾りが、翻訳したのでしょう。よろずのことわり、というのは翻訳しづらい概念のようですから、あまり伝わってきませんでした」
いい機会なので翻訳の髪飾りの機能を説明する。今までで一番喜んでいた。