2
私はいとおしさに胸がいっぱいだった。その気持ちを込めて見つめると、彼女も見つめ返してくれた。幸福感が私を満たす。
「あの、へる……ヘルヘルさん」
名前を呼ぶのもたどたどしい。私の名前はこの子には難しい発音のようだ。そんな風に言いにくそうに呼ばれるより、ヘルと呼んでもらいたい。お父様でもいい。
ああ……いいな。家族二人でずっと一緒に暮らそう。この子は世界にたった一人の種族。番が現れることもないだろうし、いや、私が番になってもいいが……体がもうすこし大きくなるようだったら……。まあ、しばらくは父でいよう。
「ヘルさん、あのですね、あの」
何か言いたいことがあるようなのだが、はっきりとしない。
……もしや。この子は生まれたばかり、つまり裸だ。身を守る毛もうろこもなく、肌はふにゃふにゃと柔らかいばかりだ。寒いのではないだろうか。
もっと早くに服を着させるべきだった。小さな手を指でこすってみるが、このくらいで温まりはしないだろう。
こんなに小さくておとなしい娘が、会ったばかりの男に服をよこせなどといえるわけがないのだ。私が気を利かせてすぐに着せるべきだった。従者としても失格ではないか。
「ここはどこですか?」
ここがどこか、なんてそんなことより先に言いたいことがあるだろうに。
「私たちはここをシンベンデールの社と呼んでいます。
あなたがいた場所とは、つながっていない地にあります」
後悔と反省が胸に渦巻いていたためにおざなりな返事をしてしまったが、気を悪くはしていないだろうか。しかし彼女は笑顔を見せてくれた。
今からでも遅くはない。すぐに暖めてあげなければ。
「お寒くはありませんか」
すると驚くような反応を見せた。悲鳴を上げて飛びのいたのだ。両手で胸を隠している。ずっと裸で平然としていたのでそういう方向はまったく気にしていなかったが、幼くても女の子ということだったのだろう。
……手を払われたとき、なぜかひどく胸が痛んだ。それは、私がはじめて知る痛みだった。