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世界の寵児  作者: もち
恋に恋する
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 社に戻り、部屋でようやくヘルさんの腕から離れてクッションに座った。ここまで会話は一切ない。無言怖いです。ヘルさんはなにやら紐を取り出して、私の首に巻きつけた。


「なに、してる?」


 びくびくしながらも聞いてみた。


「首輪つける。マリカ、よそ、いかない」


 怖いくらい真面目だ。首輪って。たしかに長いリードが伸びてるけど。私犬じゃないよ。

 それから恭しく翻訳カチューシャを私の頭に付ける。壊れていなかったらしい。ほっとした。リードをしっかりと手首に巻きつけて、すこし離れたところにクイさんと並んで座った。エルテくんはクイさんに首をつかまれて地面に押さえつけられている。可愛そうだ。そんなふうにするよりも、エルテくんに首輪を着けたらいいんじゃないだろうか。


「エルテくん、離して……」

「いいんだよ。しつけだから。マリカを連れ出すなんて何考えてるんだか」

「わ、わたしが頼んだの」


 クイさんが獰猛な笑顔を見せている。怖い。私涙目。


「ごめんよ、マリカ。この前あたしが翻訳具を返してもらわなきゃいけなくなるとかいったから、気にしてたんだろ。それはマリカのものだから、好きに使っていいんだ。おかしなこといって悪かったね」


 謝られている。怖い。


「マリカは恥ずかしがり屋だからあのときの話をされるのは嫌なんだな。悪かった。私もマリカの可愛い様子を知られるのは嫌だ。他のやつらに見せたのかと思うと正気でいられなかった。もう言わない。許して欲しい」


 それなら最初から勝負なんてしなければいいのに。


「それはそれとして、あんな風に社を出て行ったら危ないだろう。落ち着くまで紐はつけたままでいるんだよ」


 ええー……。こんなの着けてるなんて、人としてどうなの。


「あたしはちょっとエルテに話があるから。マリカはゆっくり休みな」


 クイさんはエルテくんの首を鷲づかみにして、引きずって出ていった。苦しそうな音が出ていた。


「エ、エルテくん……!」


 立ち上がって追いかけようとしたけど、首輪から伸びた紐がぴんと張って苦しい。無理に進めば首が千切れてしまう。


「ヘルさんこれとって」

「駄目」


 却下された。抱き寄せられて、ヘルさんのおなかに私の顔が押し付けられる。身動きできない。


「また出て行くつもりか。ここを出て一人で生きていけるのか。このあたりは獣も出るし、小さくて美味しそうなマリカじゃすぐ食われて終わりだ」

「エルテくんがいたもん……」

「アレか。マリカを危険な目にあわせるようなのはいらない。捨ててやる」

「だめ!」

「アレがそんなに大事か」


 地獄の底から這い上がるかのような怨念に満ちた恐ろしさ。ここを出た原因はヘルさんにだってあるはずだ。なんでこんなに怖い思いをしなきゃいけないのか。


「ヘルさんたちがいけないの! 私の体で遊ばないでっ」

「あそんではいな」

「ああいうのは好きな人としかしないものなんだから! こっちじゃアソビ感覚なのかもしれないけど私は違ったんだからね!」


 べしべしヘルさんを叩きながら泣き喚く。まったくダメージを受けた様子がないところが非常にむかむかする。私の手は痛いのに。


「したくなかったのか?」

「あたりまえだよ」

「気持ちよかったんだろう?」

「そういう問題じゃないの」

「どっちがよかった?」

「もうその話しないっていった」

「ああ……そうだった」


 脇に手を入れて持ち上げられ、たたされる。べろべろ顔中舐められて、綺麗になったところで、膝の上に座らされた。


「つまり、私以外とはしたくないってことか」


 なんだか満足げだ。むき出しになった肌をなでなでされている。なぜ 今日に限ってこんなに露出度の高い服なんだろう。


「わ、私が他の人とそうなるのは、嫌なの?」

「もちろん。マリカを独占できるものなら独占したいが、マリカがあんまり魅力的だから無理だと思っていた。しかしマリカがその気なら問題ない。マリカのすべては私のものということでいいんだね」


 優しくて、甘い声色なのに、何故だろうちょっと寒気が。ここでウンと言ったら一生この腕に囲われたまま外に出られないような気がする。

 誰か助けて、と思ったけど誰もいなかった。

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