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私が生まれた日のヘルベルクラン視点になります。
彼はちょっと変態です。
いびつな卵の前に私は躓く。透明だったそれは色づいて、今にも生まれだそうとしている。
私の生きている時代に、寵児の卵が国にやってきたのは、僥倖だった。先の寵児であるフフ様が世界を去ったと知ったときには、力を得る喜びよりも悲しみが大きかったが、それも過去のことだ。私は今、一の従者としてここにいる。
これは私のものだ。かわいい私の子。他の誰にも、渡すものか。
硬質だったものが柔らかい肉の質感に変わっていく。小さくはあるが、私たちに似た姿をしている。胸のふくらみがあるところを見る限り女のようだ。どんな服を着せようか。毛の色は黒。肌は乳白色。この色なら、きっとどんなものでもよく似合う。
生れ落ちたばかりの雛は不思議そうに瞬きをして私を見上げている。そのいかにも稚い様子に口元が緩む。なるべく怖がらせないように、できる限りの優しい声と言葉で、ゆっくりとした動きを心がける。翻訳の髪飾りを小さな頭につける。話が通じるようになれば少しは安心もするだろう。
「あの、急にわかるように、いってることとか……。私のは、わかりますか?」
震える唇から、この子の声がつむがれる。見知らぬ場所に出ておびえているのだろうか。抱きしめて慰めてやりたいが、あまりに華奢な体で力加減を間違えてしまったらと思うとそれもためらわれる。せめてこの手だけでも触れていれば、慰めになるだろうか。
彼女の手をできるだけそっと両手で包み込んだ。
「わかります。痛み、違和感、少しでも気になることがあればすぐにお知らせください。
この世界へようこそおいでくださいました。
私はヘルベルクランと申します。いかなるときもお仕えし、どんなものからお守りします」
はじめての声、はじめての言葉、はじめて触れたつややかな黒い髪。頼りない、小さな手。私はこのたくさんのはじめてを忘れることはないだろう。