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世界の寵児  作者: もち
犬はどこでもついてくる
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 私は悩んでいた。


 私に粗相したってことで、仕事を辞めさせられることになったエルテくんを私が飼うことになった。飼うってペットじゃないかそれでいいのかと思うんだけど、エルテくんには不満がないらしい。だけど……。


「マリカが許可してもいないのに近づくな奴隷の癖に」

「マリカの役に立たないごくつぶしはいらん」

「いい身分だな。マリカに飼ってもらえるなんて」


 この通り、ヘルさんがこわい。これってしつけ……? ただの犬嫌い?

 どうしたものかなー。



「エルテくん、ブラッシングしてあげるよ」

「はいっ、マリカさま~」


 ブラシを手に呼べば、すぐに目の前でごろんしてくれる。かわいいっ。体が大きいので非常にブラッシングのし甲斐がある。お風呂も私が入れてあげている。その成果かすっごくつやつやのふわっふわな毛になってきた。柴犬からサモエドにクラスチェンジだ。手入れで結構違うものだ。

 ブラシにつまった抜け毛を見て、これで何か作れないかなーと考えたりする。フェルトとか、毛糸とか。ブラッシングを終えて、頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。白いおなかの毛に顔を埋めて、ぼんやりと考える。


 ヒモ扱いされてるエルテくんがかわいそうだ。何かお仕事をして、それにちゃんとお給料を払えたらいいんだけど、私が個人的に雇うお金はない。

 結構セレブな生活をおくっている私だけど、私自身の財産というものは今のところない。マナのことを考えた先行投資みたいなことだとおもうんだけど、シムクイエを中心とした国々から援助を得ていて、お金の管理は国と従者とでしてくれているらしい。年間予算の範囲内であれば大概の望みはかなえてくれる。エルテくんのことだって、そこからお金を出してもらっている。

 ……私、甘えすぎ? 楽しく暮らせばそれでいいって言われてるけど、それに甘えてたら駄目だ。エルテくんのことも、私が飼い主なんだから、私が稼いだお金で面倒見れば、いいんじゃないだろうか。

 はっきりいって、社にいたのではお金は手に入らない。周りに何にもないから。となると、どこかの町か村か、とにかく人のいるところに出ないといけない。ただ、私ができる仕事があるのかどうかは疑問だ。それに、そんなことになったら、ここはどうなるんだろう。ヘルさんやクイさん、他の人たちは? 皆とお別れなんだろうか。いや、ヘルさんとクイさんは私の従者だから一緒に来てくれるはず。でもそれも私の我侭だ。ひとつ我侭を言うと、どんどん際限なく我侭がでてくる。困った。

 エルテくんの暖かいおなかにくっついたまま、ため息をついた。



 お風呂でも考え事をしてため息をついていた。湯船につかっているのに、ヘルさんの体はひんやりしている気がする。タオルもなくすっぽんぽんなので、触れている部分の熱が直に伝わってくる。意外なことにいかがわしいことは何もなく、いたって普通にお風呂に入るだけなんだけど、それでも色々気になるわけで。ああ、一人でのんびり入りたい。


「マリカ、悩み事があるなら言って欲しい……」


 はっとして振り仰いで顔を見ると、悲しそうだ。そんな顔されると私も悲しくなる。


「あの、ね……」


 何か言わなきゃ、と思うものの、なんと言えばいいのか分からない。お金が欲しい、なんて、言えばきっと用意してくれそうな気がするけど、それじゃ駄目だ。何の解決にもなっていない。


「何か私ができる仕事、ないかなって思って……」

「仕事?」

「うーん、あの、エルテくんの、私が飼ってるんだから私が稼いだお金から出した方がいいのかなって、思って。でも、何も思いつかないし、どうしようかなって」

「あんな奴隷追い出せばいい。マリカを悩ませるなんて生きる価値もない」


 過激だ。ヘルさんはエルテくんに大して過激すぎる。


「駄目だよ。ちゃんと、飼ったら最後まで面倒見ないと駄目なんだよ」


 ペットを飼ったことはないけど、常識だと思う。


「……マリカがそう言うなら」


 しぶしぶといった感じだけど、一緒に考えてくれることになった。ほっとした。首に抱きついてちゅーしたら、大変なことになった。かじられて噛み跡だらけになって、のぼせた。

 やっぱりお風呂は一人で入りたい。

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