ヘルベルクラン 1
ヘルベルクラン視点
最近のマリカは以前より一層可愛らしくなって困る。しょっちゅう私を見つめて、それに私が気が付くと恥ずかしげにそっと視線をはずすのだ。私に気づかれないように見ているつもりなのだろうか。遠慮せず見てかまわないというのに。
今日も二人きりになると、すりよって甘えてくる。柔らかな体が腕に絡む。小さな赤い唇が震えて、私の名前を呼び、甘い言葉をねだられる。
「私のこと、好き?」
「もちろん。好きだよ」
顔がにやける。唇に噛み付きたい。しかし、そんなことをしたら声が聞けなくなってしまう。自制しろ。
「私たちお付き合いしてるの?」
なぜそんなことを聞くのだろう。今まで精一杯愛をささげてきたつもりだ。足らなかっただろうか。付き合いですませるような軽い気持ちで求婚はしていない。マリカは私の番だと思っている。まだ体をつなげていないのを気にしているのだろうか。しかしそれはマリカの体を考えてのことであって、マリカに魅力がないというようなことはまったくない。私に準備はいらない。今すぐにでもできる。私は慎重に言葉を返した。
「私はすでに番と思っていたが」
「つがい? ……え、え、あ、結婚してたの私たち!?」
すると驚くべき言葉を聞かされた。マリカにそのつもりがなかったとは……。
「求婚を受けてくれただろう。ずっと一緒にいようと約束した」
恨みがましい言い方になってしまった。愛されていると思ったのは気のせいだったのだろうか。
「わわ、わたしのいたとこじゃ、まずはお付き合いして、それから結婚をですね、するんですよ? 式とかもあげたりして、ね」
つまり、その手順を私が踏んでいなかったために不安にさせたのだろう。可愛い子だ。マリカが遠いところからきたのだという意識が遠ざかっていたようだ。随分まどろこしいやり方だとは思うが、それがマリカのやり方であれば従おう。マリカ式の手続きを取ればいいのだ。
「マリカのいたところでは何か儀式が必要だったのか? それはどんなものだろう。こちらでもできるならばやりたいが」
マリカは遠慮していたが、そのうち聞き出したい。その儀式がなければ番になれないというなら、他のものに知られないようにすれば 私だけのマリカにできるのではないか。楽しみだ。
部屋を出ていたクイグインネが戻ってきて、マリカが立ち上がり私から離れる。後姿を見て、服に赤いものが見えた。今日の服にあんなものはついていなかったはずだ。赤い……マリカの血は赤い。怪我をしてしまったのかと、引き止める。
「マリカ、どうした!?」
痛い、と声がして、慌てて服をめくり傷口を探す。下着が赤く染まっていて、ここを怪我したのだろう。しかしマリカが恥ずかしがって下着を抑えて、脱げないようにしている。今はそんなことを気にしている場合ではない。手をどけてくれ。
「生理だろ。ヘルベルクランは外に出てな」
クイグインネがそれをみて言う。生理? こんなに血が出ているというのに。私は男で生理などなったことがないが、今まで付き合った女のものなら見ている。こんなに血塗れているものなどいなかった。
「でもこんなに血が」
「うーん、確かに随分量が多いけど……。マリカ、向こうではどう……マリカ?」
「はなれてっ! そんなとこみちゃだめなんだからあ!
ばかっ! えっち! なんでみせるの! だめでしょ!」
服の裾を両手で押さえ下着を隠し、泣きながら必死でそんなことを言う。その様子があんまり可愛くて興奮してしまう。
「クイグインネ、出て行け。お前には見られたくないそうだ」
わたしはマリカの番なのだから、見てもいいはずだ。
「あのねえ……男にまかせられるわけないだろう。出ていきな」
「そうだよっ! ばかっ! えっち!」
理不尽ではないだろうか。しかしもしも生理なのだとしたら、この女に任せたほうがいいのかもしれない。仕方なく部屋を出た。
やはりあれは生理なのだという。しばらくあのように血が出続けるものらしく、心配でならない。何日もあのように出血して本当に平気なのだろうか。血を増やす食べ物を食べさせなければ。
体が、特に腰が痛むというので、撫でてやると気持ちよさそうにしている。うとうととしたかと思ったら眠ってしまった。
マリカの体はこんなにも小さくて華奢だというのに、すでに大人なのだ。やっても問題ないな。慣れさせればいいのだ。うん、問題ない。
「……ぅあ。わたし、ねてた……?」
「ほんの少しだけ。寝ていていいんだよ」
私が全部やるからマリカはここに寝ているだけでいい。
「ずっとマッサージしてくれてたの? ありがと……きもちよかった」
マリカはぽやんとした、いまだ夢の中にいるかのような表情で小さく微笑んだ。可愛い。これくらいのことはいくらでもする。いや、もっと気持ちいいことをしたい。しかしマリカは恥ずかしがりやだから、あまり直接的なことを言われるのは好きではなさそうだ。どう誘えばいいだろうか。考えていると、マリカがもじもじと言葉を言いよどんでいる。なんだろうか。
「こっ、子どものことはどう考えてるのかな!」
子どもが欲しいのだろうか。しかしマリカと同じ種族はこの世界にはいない。交尾の真似事はできるし、私がいくらでも相手をしたいがそれで子どもができることはない。欲しがってもそればかりは与えることができないのだ。マリカは世界にたった一人の種族。寂しかったのだろうか。私がいるのに。
「ヘルさん?」
マリカの子ならそりゃあもちろん可愛いだろうが、見ることはかなわない。いや、もしや私の子どものことなのか? たしか、何年も前にできたはずだが、名前は与えていない。どこでどうしているのだろう。それのことをどこかで聞いたのだろうか。
「私の子どもか? 誰に聞いたんだ……。連絡も取ってないからなあ。まあ、元気にしているんじゃないか」
そう言うと、マリカは勢いよく起き上がったかと思うと私に向き直った。顔を赤くして、手を握り締め、上目遣いで見てくる。可愛い。が、どうしたのだろう。私の子の話ではなかったのか?
話を聞いていると、つまりは番になった相手のことは何でも知りたい、ということなのだろう。初々しく可愛らしいことだ。しかし、私自身興味もない子どものことなどマリカが気にする必要はない。
そう伝えると脱力し、寝台に突っ伏した。
「家族が欲しい?」
それとも。血を分けた存在が、恋しいのだろうか。私だけでは足りないのだろうか。
「マリカは私のものだ。他の誰にも、渡さない」
隙間なく私を与えると、マリカは泣いて喜んだ。美味しかった。




