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世界の寵児  作者: もち
出会い、はじまり
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ウイヴイエルイ 1

ウイヴイエルイ視点です。

 シンベンデールの社からの報告はいつも簡素だ。なにしろいまだ卵は孵らず、その状況では布告すべきこともないのだろう。だから、私はいつもは報告を見ることはない。部下にすべて任せていた。

 しかしその日、いつもよりすこし分厚い報告書が渡された。ようやく生まれたというのだ。写真が入っている。紺の衣装ですべてを隠してしまうように覆われていて、露出している部分がやけに少ない。肌は不思議な色合いだ。うっすらと黄みがかっている。かぶらされたベールの奥からこちらを伺うように黒い瞳がのぞいていた。小動物のようだ。隣に従者だろう男がいて、比べると随分小さく人形のように見えた。

 見ていると妙に胸が騒ぐ。他にも写真がないかと探すが、たった一枚だけだった。


「スージ。いつ会いにいく?」

「いまあちらに派遣する者を選んでいます。彼女が落ち着いてからということですから、そうですね、5日か6日後でしょう」

「私も行こう」

「……ウイヴイが行くほどでしょうか。たしかに寵児ともなれば重要人物ですが」

「会ってみたいんだよ。いいだろう?」


 スージズージミールを見つめる。そうするといつもおもしろいほど動揺する。容貌は悪くない。体つきもほっそりとしていて割りと好みだ。もう何度も相手をしてあげたというのに、いつまでも初々しくて笑ってしまう。


「わ、かりました……そのように日程を組んでおきます」


 顔を伏せて目をそらそうとするのを、顎をつかんでやめさせる。笑みを浮かべて口の端に口付ける。


「頼んだよ」


 ご褒美はこれでおしまいだ。手を離して、写真に目を落とす。

 名前は、マリカ。タカハシマリカ。タカハシが家名、マリカが個名らしい。個名だけを呼ぶもののようだ。


「マリカ、ね」


 随分野暮ったい服を着せられている。私が選んだ服に着せ替えたい。小さく細い体は好みだ。変わった色をしているが、容姿も可愛らしいといえるだろう。

 私の人形にしたい。好きに扱いたいものだ。胸が騒ぐのは、そういうことなのだろう。



 社に詰めることになったのは、従者の親戚という眼鏡をかけた、紫の髪の地味な男だ。キュジィギュジィクランという。クランといえば先代の長であるタイダイクランの血縁だろう。たいそうな人物が選ばれたものだ。

 私と、私の補佐官が2人、それとキュジィギュジィクランとで社へ向かう道中、彼から情報を送ってもらうため、なるべく気さくな様子を装って話しかける。硬い返事しかかえってこないが、会ったばかりで、しかも私は長官、彼はただの役人だ。そんなものだろう。

 どうやら写真を撮るのが趣味らしく、それもあって選ばれたのだろう。文書の作成能力も求められる。少なくとも社にいる間は彼の報告により新聞記事がかかれることになるからだ。有能であることを願おう。


 社は遠かった。飛行艇で3時間、そこからさらに浮遊艇で2時間近く。キュジィギュジィクランとはそれなりに話せる様になった。うんざりするほど遠かった。次からは飛行艇を貸しきって近くまで飛ばそう。

 着くとすぐ女従者のクイグインネが出てきて、部屋に案内される。


「マリカは人が多いのは苦手なんだ。面会は最低限で頼むよ」

「では私と社付きになるキュジィギュジィクランで。補佐官は待機させましょう。よろしいですか」

「補佐官殿の召使に相手させるよ。準備ができ次第呼ぶから待っててくれ」


 言いたいことだけ言うとさっさと部屋を出てしまう。あれではマリカの様子を流してもらうことはできそうにない。やはりキュジィギュジィクランを頼るしかないか。


 応接室へ通される。紫の服を着せられた人形のような少女が座っている。震える瞳がこちらを覗いている。実際に見てみると、服を着ていてもわかるほどほど頼りない体だ。


「万理歌です。あの、様とかはいいので……よろしくお願いします」


 姿ばかりか声までも可憐で、胸が痛いほど高鳴る。理想だ。私の理想がここにある。


 元々、細く華奢な体の女が好きだった。エーリエーの女を囲ったこともある。あんなに細い腕や脚で本当に動けるのだろうか。少し力を入れればぽきりと折れるだろう。そうなれば泣くのか、その可愛い声で。


 寵児でなければ、なにをしてでも手に入れたものを。今も従者がこちらを睨みつけている。彼女に何かあれば他の種族も黙っていないだろう。クールーエルガの再来は困る。

 いつか、私は手に入れる。そのときまで、私は優しいおじ様でいよう。

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