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世界の寵児  作者: もち
出会い、はじまり
42/63

ヘルベルクラン 5

 都に行く為の飛行艇が迎えに来たのはいいが、あの変質者も同行していた。お前治部省の長官だろう。何故来たんだ。忙しいはずだろう。

 しかもわざわざ隣に座り、マリカの体をつかんで動けないようにしている。その上食料でつるつもりか、なにやら見慣れない食べ物を持ち出した。マリカが気にしていたゲオルの料理らしい。キュジィギュジィが知らせたのか。


「いかがですか」


 ウイヴイエルイの手にある食べ物がマリカの口元へ近づく。あいつの用意したものなど食べさせたくはないが、この旅の接待役はあの変質者だ。なるべく大目に見なくてはいけない。イライラしながらも、マリカをみると、目が合った。困ったような、だが期待に満ちた目をしている。なんだ?

 ……ああ。可愛いな。食べてもいいものか私に確認しているのだろう。信頼を感じて嬉しくなる。マリカに食べさせるものはきちんと安全を確認してあるはずだ。あの男もそこまで阿呆ではないだろう。


「マリカ、何を食べたい?」


 聞くと、口元に押し付けられたサフサフという食べ物を指差した。ひとつうなずくと、嬉しそうに口を開いた。ひとくちが小さい……ああ、私も食べさせたい。


「全部マリカのものです」


 そう聞いたので、私がせっせと食べさせはじめると、変質者やクイグインネまで食べさせ始めた。邪魔で仕方がない。

 マリカが周りに侍るものたちにも食べ物をすすめたが、あまり手を伸ばすものはいない。クイグインネがいやしくも口に入れていたが、あまり合わないようだ。あの鳥の料理と似たようなものを思い浮かべれば、そうだろう。しかしマリカは嬉しそうに食べている。あんまり可愛いので、特に喜んで食べているきゃらめるというものを少しもらうことにした。


「マリカ、私にも」


 口の中に舌を伸ばしてきゃらめるを舐める。でろでろに絡みつくような甘い食べ物だ。マリカの体液の方が程よい甘みで美味しいと思う。


「おいしい?」

「甘い」


 私の言葉に不満げに口を尖らせる。こういう顔も可愛くて好きだ。

 しかし、マリカは私たちの反応がつまらなかったのか、ついてきていた護衛のゲオルを招き寄せてその口に食べ物を差し出した。ゲオルの料理だ、やつらの口には合うだろうがおもしろくない。私もあの味に慣れなければいけないだろうか。


「び、美形ですね?」

「ありがとう、ございます?」


 何がどうなってそうなったのか、マリカがあのけだものを褒めだした。美形? マリカはやはりゲオルが好きなのか? ゲオルになればいいのか? なれるわけがない。ゲオルが憎い。


「マリカはゲオルがお好みでしたか?」

「は、いえっ、そういうわけではないです。いや可愛くて好きですけど! 向こうにも似た生き物がいて、その基準からすると美形って言うかすっごく毛艶もいいですし! そ、そそ、それで、それだけ、です……」


 やはり毛なのか。やつらの毛皮を剥ぎ取ってしまいたい。それを被れば私もマリカ好みになれるではないか。


「マリカの基準で私は美形なのでしょうか」


 ウイヴイエルイがまたおかしな発言をしだした。マリカが抱きついてくる。


「お、おじ様は、も、もちろん素敵です……」


 思わず腕に力がこもるのは仕方がないと思わないか。アレだぞ、変質者だぞ。あんなのがいいのか? 流石にあれを真似たいとは思わない。考え直したほうがいいぞ、マリカ。


「あう! ヘるさんもかっこいいよお! すき!」


 抱きつぶしてしまうかと思った。

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