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世界の寵児  作者: もち
出会い、はじまり
41/63

ヘルベルクラン 4

 なにやら真剣な表情で、マリカがあのね、と口を開いた。何かと思えば言葉を覚えたいのだという。翻訳の髪飾りがあれば言葉を覚える必要はないが、何かあったのだろうか。マリカの小さな頭に余計なことを詰め込みたくはないのだが。


「名前とかもね、難しくて、覚えられなくてもそのままできちゃったんだけど……やっぱりずっとここで暮らしていくんだし、ちゃんといえるようになりたいの」


 こぶしを握り締め、きりりと決意の表情を浮かべている。可愛い。マリカが言葉を覚えれば、頭飾りも色々つけられるようになる。どんなものが似合うだろう……。


「たしかにね。その翻訳の髪飾りって世界にひとつしかないからねえ。万が一それが壊れたときにも言葉を覚えておけば役に立つだろう」

「えっ……これ、もしかしてすっごい貴重品?」

「それは賢者が作った、寵児専用の翻訳具だ。作り方は残されてはいるが、材料が特殊で予備はないんだ」

「じゃあ大事に使わないとね」

「入れて持ち歩けるように専用の鞄を用意しようか」

「うん、おねがい」


 幼児向けの本をいくつか持ってくる。一度読んだあと、髪飾りをはずしてもう一度読み、復唱させる。


「おはよう」

「おぁよおー」

「お、は、よ、う」

「おぉ、あ、よー、う」


 発音が壊滅的に駄目だ。可愛い。いたって真面目な顔をしているマリカをみて、クイグインネは笑いをこらえていた。お前どこかへ消えてしまえ。


「おいしい」

「おりしぃい」

「おいしい」

「おうぃ、しー」

「お、い、し、い」

「おい、しぃい!」


 最後は少し自慢げだ。ちゃんといえたつもりなのだろうか。可愛い。


 1冊分終えたところで、髪飾りを戻す。


「本当に覚えるつもりがあるなら、翻訳の髪飾りはずっとはずして過ごしたらいいんじゃないか? そうしたらすぐ覚えられるよ」

「えっ……」


 クイグインネの無情な言葉に、マリカは髪飾りを取られまいと両手で押さえた。可愛い。



 言葉を教え始めてから何日かたち、だいぶ意思の疎通ができるようになってきた。そのため、一日髪飾りをはずしてみることになった。


「たえる、ない」

「もう食べないの? 飲み物を最後に飲もうか」

「ん、おもう」


「へるぅ、あし、ふるう、しる」

「運動する?」

「ぅん、うんどぉ。あしるー。あ、ふく、てぃがう」

「そうだね、服も着替えよう」


「お風呂に入ろうか。一緒に行こう」

「ふろ、ふろ! ひと、いあない、じょーぶ、じょぶ」

「ははは。駄目だよ、危ないからね」


 一日が終わり、髪飾りを付けて本を読むマリカを見ながら、クイグインネは言った。


「なんでアレで理解できるんだ?」

「愛情の差だろう」

「あたしだって愛してるよ!」

「やめろマリカが穢れる」


 あつかましい女だ。私のマリカに愛してるなどと冗談でも聞きたくない。しかし随分言葉が上手くなった。なんて賢い子だ。


「……あー、今日はもう読むのやめる~。頭が疲れたー」


 ごろごろと転がりながら寝台から転げ落ちてきた。大丈夫か。


「まだ寝るにははやいだろ? 美容しようか?」

「……うん。あれ、気持ちいいね」


 マリカが恥ずかしそうに笑う。美容……なにやらべたべたぬりたくるやつか。いつのまにそんなことをやっていたのかうらやましい。私もマリカにべたべたしたい。


「じゃあ準備するよ」

「ちょっと待て、私がやる」

「はあ? やったこともないくせに何言ってるんだ」

「じゃあ教えろ」

「やだよ」

「教えてくれ」

「前々から思ってたけど、お前って馬鹿だな」

「あ、あのー……やっぱり今日はやめとこうかなー、なんて」

「マリカ、遠慮しなくていいんだよ。ヘルベルクランのことが気になる? 追い出すから安心しな」

「マリカ、私もマリカを気持ちよくしたい」


 マリカは顔を真っ赤にして、クイグインネに抱きついた。そっちじゃない、こっちにおいで、マリカ。


 結局寝室を追い出されてしまった。マリカが寝た後、寝巻きを剥がしてみてみたが、全身つるりと滑らかになっていて、心配した歯型もついていなかった。

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