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世界の寵児  作者: もち
出会い、はじまり
39/63

ヘルベルクラン2

 マリカが何かを決意した様子で、珍しくも声を張り上げた。


「ダイエットします」

「駄目だ、折れてしまう」


 今でさえあまりに華奢で心配だというのに何を言っているのか。マリカの望みはもちろんかなえたい。しかし危険があることは別だ。


「でも今度お披露目するんでしょ? そのとき太ってたら恥ずかしいし。運動して、体力つけるのは、悪くないよね」

「運動、ねえ……それならまあ、いいかもね」

「危ないだろう。怪我でもしたらどうするんだ」


 今まで見てきてマリカの身体能力が低いことは知っている。体の大きさの違いがあるとはいえ、歩くのも遅く、扉も一人で開けられないほど非力なのだ。そんなマリカが運動? 怪我をするに決まっている。

 私の反対もむなしく、クイグインネが勝手に服を着替えさせ、外に連れ出してしまった。仕方がない。私が気をつけてやるしかない。

 しかし服が合っていないな。半そでのはずが肘より長くなっているし、首周りも開きすぎて肩が出そうだ。これでは動きにくいだろう。大きさのあったものを作らせなければ。


 走り回りながら球を蹴っている。足だけを使い球を取り合う遊びらしいが、マリカの動きはあまりに拙く、ほとんど球を取れていない。私やクイグインネの後を追いかけて走っているだけだ。これで楽しいのだろうか。


「つかれたー」


 それでもマリカには十分だったようで、垂れるほど汗をかきながら地面にへたり込んでいた。しかも満足げに微笑んでいる。……まさかもう終わりなのか?


「久しぶりにこんなに動いたから明日は筋肉痛かも」


 言いながら腕を揉んでいる。後で全身撫でてあげよう。撫でるくらいがマリカにはちょうどいいらしく、気持ちよさそうに体を弛緩させるのだ。可愛い。


「警備のひと、見られるの恥ずかしいなぁ」


 私も見せたくはないが、危険がないとはいえない。何しろこれだけ可愛らしいのだから手に入れたいと思う輩が大量に現れてもおかしくない。

 警備員は存在を忘れるくらいでちょうどいい。気にする必要は


「今度、あいさつに行っていい?」


 ……マリカは気を回しすぎる。警備員まで調子に乗ってマリカに懸想しだしたらどうするんだ。いまだって脳内ではマリカを穢しているに違いないのにだめだやつらの頭をつぶしてしまいたくなる。警備員は置き物。置き物だ。


「マリカが行くのか?」


 大体マリカが行く必要はあるのか。置き物だぞ。


「うん。……でかけてみたいな」


 腕に抱きついてきて、はにかみながら私を見てくる。汗に濡れた体はしっとりとして美味しそうだ。食べたい。

 不穏な気配を感じ取ったのか、するりと離れてクイグインネにしがみついた。違うんだ、ちょっと味見くらいならと思っただけだ。引き剥がして抱き寄せる。本当にこの子は柔らかくて素晴らしく可愛らしい。



 夜、キュジィギュジィを執務室へ呼び出し、兵営へ訪問するための手配を頼み、報告書の確認をする。

 マリカが運動する様子がやけに細かく書かれ、写真まで添えられている。球を追いかけて走っている写真だった。服がめくれて背中が少し見えている。


「こんなに詳しく書く必要はあるのか?」

「楽しく暮らしている様子を知らせたほうが皆安心するのでは?」


 報告は、寵児に危害を加えられていないか、確認する意味合いもある。確かに、こうして楽しげにしている姿をみせればそれはわかりやすい。


「この写真は駄目だ。少し露出が多すぎる。報告書のこの部分も削れ。服がめくれても気にすることなく、だなんて書いたらマリカが破廉恥な女だと思われるだろう」

「じゃあそこは削って……この写真なんてどうでしょう。あと、こんなのもありますが」


 笑顔で汗を拭いているマリカの写真だった。他にも次々とでてくる。あきれるほどたくさんだ。しかも、どれもこれも可愛すぎる。あの時キュジィギュジィはいなかったはずだが、一体どこで見ていたんだろうか。


「……いつのまに撮ってたんだ」

「報告しなきゃいけませんから。邪魔にならないようにしているつもりでしたが」


 近くをうろうろされるよりはましか。

 毎回これだけ多量の写真を選別していたらそれだけで大層な時間がかかってしまう。ある程度は任せるしかないか……。


「送る写真はよく選べ」

「はい。それではこれと、これにしましょうか」


 それよりもクイグインネの影に隠れて頭と腕が少し見えている写真がいいのではないかといったら、それでは様子がわかりません、と言われた。マリカが可愛すぎて目をつけられないか心配でならない。

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