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世界の寵児  作者: もち
出会い、はじまり
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 今夜が都に泊まるのは最後。ヘルさんの実家にお招きされて、夕食をご一緒することになった。お忍びでというやつです。クイさんはその間自由時間です。従者もお休み必要だよね。あれ、ヘルさんはいいんだろうか。実家で休むからいいのかな。

 なぜかキューちゃんもついてくると思ったら……。


「え……親戚、なの?」

「私の姉の子どもらしい」

「何年か前に会った筈ですよ」

「……あの時眼鏡かけてたか?」

「私は眼鏡しか特徴がありませんか」


 ヘルさんのお姉さんがキューちゃんのお母さんなのだそうだ。知らなかった。


 おうちは豪邸だった。ホテルもかなり豪華だと思ったけど、このおうちもすごい。都にあるのに、社より広そうな御宅だ。実はお金持ちだったようだ。


 出迎えてくれたのは、紫の髪の女の人と優しそうなおじさんだった。


「ようこそ、マリカ様」

「ようこそおいでくださいました。私はキュジィギュジィの母でヘルベルの姉のカリナガリナクランと申します。

 こちらは父のタイダイクランでございます」

「今日はよろしくお願いします」


 お姉さんは自信に満ち溢れていて、どばーんとした迫力ある胸をもつ色気のある美人だ。もてそう。おじさんは、お姉さんの存在感にかすんでしまいそうな穏やかな人だった。っていうか、ヘルさんやお姉さんのお父さんってことはキューちゃんのおじいさん……。そう考えるとずいぶん若く見える。


「ヘルベルはよくお仕えしていますか?」

「はい。とっても優しくしてもらってます」

「マリカ様のことが大好きなようです。見捨てないでくださいね」


 おじさんは優しく微笑んでくれた。すごい……シムクイエなのに怖くない笑顔。貴重だ。癒し系だ。


「キュジィギュジィも社に行くことになったときは驚きました。クランから二人も行くことになるとはね」

「むしろヘルベルさんがいるからだったようですよ。生まれたばかりは忙しいだろうから、気心の知れた相手がいれば役に立つだろうと。

 ヘルベルさんは私のことは覚えていなかったようですが」

「キュジィギュジィが生まれたときはまだこちらにいただろう」

「カリナガリナが子どもを産んだのは覚えている」


 気安い会話がなされていく。ヘルさんやキューちゃんのことを知れて興味深くはあるが、会話に混じるのは難しくて少し退屈だ。親戚の家でお行儀よくしていなさいといいつけられた子どもの気分だ。

 連れられて部屋に入ると、女の子が一人いた。でっかすぎてよくわからないんだけど、顔の感じからすると……12~3才くらいなんじゃないだろうか。でっかいけど。2メートル以上はあるだろう。赤紫の髪の、活発そうな子だ。


「私の子でシィクジィクイエルといいます。普段は父親の所におりますが、マリカ様にお会いしたいというので同席よろしいでしょうか」

「はい。よろしく、マリカです」

「マリカ様はお人形さんみたいに可愛らしいですね! 会えて嬉しいです、トモダチに自慢しちゃいます!」


 そう喜ばれると照れてしまう。ヘルさんたちは久しぶりに帰ってきてつもる話もあるだろうし、すこしこの子に話し相手になってもらうことにした。ええと、名前は……シイクジイクエルでよかったかな。あれ、なんで最後がクランじゃないんだろう。お父さんの所にいるって言ってたし、そちらの名前なのかな。


「キュー……クジイグジイさんの、妹さんなんだよね?」

「クジイ……? ああ、キュジィギュジィクランですね。お父さんは違いますけどね。私、お父さんの方で育ったから、クランのことはあんまりよく知らないんです」


 あっさり言われたけど、なんかハードな家庭状況じゃないだろうか。


「そ、そうなんだ」

「今日はお母さんに声かけてもらえてよかったです! お母さんにも久しぶりに会いました」

「……あ、の、こっちでは、家族が揃って暮らしたりはしないの? 私のいたところでは、両親とか兄弟は、子どもが大きくなるまでは大体同じ家に住むものなんだけど」

「そういうこともありますよー? でもお母さんもてるからぁ。いちいち暮らしてたら大変じゃないですか。大所帯になっちゃって」


 子どもがそういうことを知ってるってどうなの。でも全然気にしてなさそうだなあ。

 こっちの人って、わりと家族とか恋人的な関係とかドライな感じがする。クイさんも子どもに会わなくてもいいって言ってたし。


「あたしもお母さんみたいな髪の色だったらよかったのになあ。ちょっと赤すぎ! おとうさんなんて真っ赤なんですよー。よくお母さんに相手してもらえたなっておもっちゃう」

「赤いと駄目なの?」

「やっぱり青いのが一番綺麗じゃないですかー? 紫もいいけど、赤はもてないからいやです!」


 クイさんも赤い髪だけど、もてないんだろうか。でも結婚してたらしいし……もてないなんてことはないんじゃないかと思うけど。


「ところでっ! マリカ様がお好きなのは誰なんですか?」

「え……っ」

「トモダチは、ゲオルの銀のひとを好きなんじゃないかっているんです。でも、やっぱりいつも側にカッコイイ従者の人のほうがいたら好きになっちゃうと思うんです! だから私、ヘルベルクランさんがイチオシですー!」


 なんだこれ。なんだこれ! ゲオルの銀のひとってユオーさん? 好きってなんでそんな話に。しかも、最初はこそっと小さな声だったのにどんどん大きく……。って皆さんこっちみてるー!


「私はマリベナさんがイチオシです。ケダモノと妖精は萌え」

「キュジィギュジィの上司の、ほら、あの青い髪のいい男はどうなの?」

「あ、あの人もいいよねー。私がもっと大人だったら狙っちゃうのに」

「私はあのもう一人の従者の女性がいいと思うんだ。口付けている写真がすばらしかった」

「……口付け?」

「ああ、その写真のことは秘密にって言っておいたのに」

「ゲオルに取られないようにキュジィギュジィも頑張りなさいよ。新聞にもまったく出てこないじゃないの」

「私は写真を撮ってるだけなんだから出てくるわけないじゃありませんか」


 なんで皆さんそんなに私の周囲の事情に詳しいのでしょうか。


 賑やかに話しながら過ごした。なんか、やっぱり親戚の家って感じ。



 今日はお屋敷に帰る日だ。飛行艇に乗り込む。

 私を抱きよせて、おじ様がため息をつく。


「なぜあんな辺鄙な場所に行ってしまうのですか……。都に住んでくださればよろしいのに」


 こんな人にまみれて落ち着かない場所は嫌です。せめて普通に出歩けたらなあ。


「いつでも呼びつけて頼ってください。私はマリカの僕です……」


 潤んだ目を向けられても困る。それに、こうも寂しがられると私まで寂しくなってしまう。


「また会えますよ……ね?」


 ぽんぽんと腕を叩く。すると感極まったように私の名前を呼ばれて、顔中にちゅーされた。口にも舌まで入ってくるのを長々とやられました。ぞわぞわするし息苦しくて今度は私が涙目。

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