10
もう都に来て4日目の朝だ。軽く朝食を取ったあと、朝市に連れて行ってもらえることになった。
「騒ぎにならない?」
「ああ、大丈夫ですよ。でも離れたら危ないので、私が抱きかかえて差し上げますね」
「お前は馬鹿か。それは私の役目に決まっている」
「従者殿には聞いておりません。ね、マリカ。かまいませんね」
可愛らしく小首をかしげたおじ様の、あつーい視線が突き刺さる。お断りしづらいことこの上ない。さすがたらしなおじ様だ。自分の見せ方をよくわかっていらっしゃる。おじ様にだっこされるのは遠慮したいところだけど……都に出てくるのを楽しみにしてくれてたみたいだし、応えたほうがいいのかなあ。
朝市はずいぶん賑わっているようだった。広場にたくさんのテントが並んでいて、呼び込みの声が飛び交う。
結局おじ様にだっこされて市場へやってきた。喜んでるみたいだし、おじ様に会えるのはこっちにいる間だけだし……。仕方がない。
でもおじ様は体が硬くて、座りが悪い。もぞもぞしてしまうけど、しっかり抱えられているから、落とされるようなことはないと思うんだけど。
「なにか気になるところはありますか?」
「あ、あの、あの……よくみえないんです……」
言おうか言うまいか迷ったけど、せっかく来たのに見えないのはもったいない。水色の布を頭からかぶされてからだにもぐるぐる巻きつけられて、それだけでも視界が悪いのに、周りを護衛の人に囲まれているのだ。皆さんでかいので壁以外の何者でもない。なにがあるのかよくわからない。しかもこれ、すっごい目立ってるんじゃないだろうか。騒ぎになったらどうしよう。
「それでは肩車にいたしましょう」
一度下ろされて、脇をつかまれるとぐわっと持ち上げられて、右肩に乗せられた。ちょっと高すぎて怖いのですが。しかも少々不安定。頭に両手でしがみつく。必死だ。周りを見る余裕なんてない。
「マリカ、両目をふさがれては前が見えません」
「やだ、おちちゃう! こわい!」
「支えておりますから問題ありませんよ」
「やだぁ! たかいもん!」
「仕様がないですねえ」
体をかがめて、降ろしてくれた。おじ様ってば笑ってるけど怖かったんだからね!
「ベール、とってもいい?」
「そうですね。見えないのでは楽しくないでしょう。
……ふふふっ。高いところが怖いなんて可愛らしいことをおっしゃるのですね」
「おじ様イジワルです」
「おやおや。それではご期待に沿わせていただきましょうか」
「えっ……あ、やだあ」
あっという間に肩の上に乗せられていた。からかわれているのはわかっているけど、怖いものは怖い。きゃーきゃー騒ぎながらもしがみつくしかない。
「マリカ、おいで」
ヘルさんが腕を伸ばしてきて、その手にすがろうとしたところ、ようやくおじ様は私を降ろしてくれた。また捕まらないようにヘルさんにしがみつくと、いつものようにだっこしてくれた。なんだか安心する。
そのまま市場を見て回った。護衛の人は最低限の人数だけ側で、あとは少し離れてもらったので、なんとかお店が見えるようになった。
食料品が主で、どすーんと大きな塊肉が置かれて売られていたのには驚いた。ここ、テントがあるとはいえ屋外なんですが。干した果物とチーズっぽいものがあったのでそれを買ってもらった。お土産にしよう。
市場を見たあとは、エーリエー族の使節団の人たちと会って来た。
なんていうか……若干……失礼な人たちだった。
「あらあらちょうどいい大きさだわね」
「いいね、ぺったんこで」
「もうちょっと足が細ければいいのに」
「色は好きだな。綺麗な黒だ」
「あらー、私はもうちょっといろんな色が混じってる方がいいわあ。青や緑が混じってたら素敵だと思わない?」
「赤もいいじゃないか。黒に映えるよ」
これで褒められてたらしいのが不思議でならない。