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なんだこれえええええ! 眼鏡をかけたライオンさんがいる。かわいい!
他の国からきた使節団の人というのが獣の人たちで、その中にふさふさの鬣のライオンさんがいた。眼鏡をかけて、その上服を着ている。なかなか見られない光景だ。
「はじめましてマリカ様」
「ははははじめまして!」
思わずじっと見ていたら声をかけてくれて、手を差し出してくれたので握手もした。肉球!
「マリカ様は私達の毛並みに興味がおありだとか。どうぞお触りください」
「え、あああ滅相もないです!」
百獣の王なのに気さくだ。触りたい、触りたいけどすごく触りたいけどどうしようだめだよね。なんてったって王様だもんね。
「鬣はお気に召しませんか」
なにこれかわいすぎる。しょんぼりしないで。
欲望に負けて触ってしまった。ふさふさ! ひなたのにおい! まあるいお耳! ふさのついたしっぽ! ああっ、幸せ。
いつの間にか獣さんたちに囲まれていて、もふもふ三昧だった。ここって天国?
「想像以上に小さいなあ」
「マリカ様、是非われわれの国にもいらしてくださいね」
「柔らかくてすぐに破けそうな皮膚ですなあ」
「バカ、爪を立てるな」
「いい匂い……」
「私もなでてください!」
名残惜しいけど、時間が来てしまったので、また会う約束してお別れした。獣さんの国に旅行……ちょっと楽しみだ。落ち着いたらひっそりいきたい。
あと、テルベ族という、ヘビ、トカゲ系の人たちにもあった。二足歩行でつるんとしたお顔で、口を開くたびにちろちろと細い舌が出入りする。ピッタリした服を着ていて、宇宙人っぽい。
握手をしたけど、すべすべして冷たい手だった。
「シュムクイエが悪さしてはいませんか? 困ったときには私たちを頼ってくださいね」
「わたしの家にはブールの鱗が残っているんです。いつかテイェルベの国にいらした際には是非およりください」
「綺麗な肌ですねえ……こんなに柔らかいのに張りがある」
「ゲオルに興味がおありの様だが、私たちはいかがでしょう。特に私の持つ白い色は珍しいのですが」
ブールというのは、昔テルベの国にきた寵児の竜のことらしい。遺物が自慢になるのか。私の残せるものって何になるんだろう。髪の毛とか? のろわれそう。
表情が読めないけど、皆さん握手した手をなかなか離してくれなくて、多分、好印象を与えられたんじゃないかと思う。
いつもより布が増量された服を纏い、写真館のような場所で写真を撮った。重くて辛い。立ち姿や座ったのや、服を変えたり、あと、従者と一緒に、と言われてそれも撮った。クイさんがぐるぐる巻く服をきているところははじめてみたなあ。ヘルさんはいつもとあまり変わらない。でもカッコイイと褒めておいた。ゲオルの人のもふもふ毛皮がうらやましかったのか、すこし拗ねてる気がしたから。ヘルさんは案外お子様だ。
取材は雑誌のインタビューみたいな感じだった。芸能人みたいな扱いなんだろうか。しかし好きなタイプとか聞いてどうするんだろう。こっちで恋人とか……どう考えても無理だ。シムクイエは姿かたちだけ見ればいけそうだけど、肌の色はともかくちょっと大きすぎる。ゲオルももふもふする分にはいいけど、獣だし。鳥のエーリエーはちょっとうるさすぎるし。いや、一人しか知らないからそうでない人もいるのかもしれないけど、それでなくても、鳥だし。テルベは爬虫類、と。人魚のシェシェシェもなー、海に住んでるってことなので、一緒に暮らせないしね。
とりあえず、無難に優しい人、と返しておいた。
今日の夕飯は、忙しくて時間が取れなかったそうで会食ではなかった。そのほうがいい。しかも、マーボーっぽいタレのかかったうどんだった。麺料理ははじめてだ。こういうのもあるんじゃないか。これもゲオル料理らしい。
「マリカはゲオル料理が好きみたいだね。
社に料理人をもう一人入れようかと思っていたんだけど、ゲオル料理を作れる料理人を探そうか」
「それがよさそうだねえ……。しかしよくこんな舌がしびれるのを食べられるね……」
美味しい美味しいとマーボーうどんを食べる私をみて、にこにこと微笑むヘルさんとは対照的にクイさんはひいていた。