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つかれた。もうつかれはてた。
本日の予定はつつがなく終了しましたよ。長さんたちとの会見も問題なく終わったし、合同記者会見も、質問表を先にもらっていたおかげで割りと落ち着いて答えられたと思う。でも緊張した。疲れた。もうやだ。たくさんの人に囲まれるの怖い。みんな大きいし。じろじろみられるし。
あ、これからおじ様と夕ごはん食べるんだった。もう一度気合を入れなければと思うけど、一度気を抜いてしまうとなかなか戻せない。おじ様なら大丈夫かなあ……。
ホテルの部屋で、クッションに頭を埋めてつらつら考えていると、キューちゃんがやってきた。
「マリカ様、こちらに着替えてください」
今部屋に着いたばっかりだというのに、鬼か。涙が出てくる。
ヘルさんが服を受け取って広げる。……うわあ、布の面積少なっ。無言でつき返してたけど、キューちゃんは受け取り拒否していた。
「……ウイヴイエルイとの食事など取り消しでもかまわない。コレは服とは呼べない。こんなのを着せるつもりかあの男」
胸の部分だけを覆う布に、腰に巻きつける短いラップスカートみたいな服だ。……これ、服?
結局着た。着ましたよ。だっておじ様がやってきたかと思ったら、悲しそうな目でこちらを見てくるんです。そんな目で見ないで欲しい。
おなかは丸見え、腕も足もむき出し。ちゃらちゃらと飾りを付けて、髪には葉っぱを飾られた。翻訳カチューシャがあるから、頭に飾りをつけることはあまりないんだけど、今日はおじ様だけってことで、あ、ヘルさんとクイさんはもちろんいるけど、こっちの言葉に慣れるためにはずしたらどうかといわれてつけていない。大丈夫かな……おじ様なら私の言葉の具合もわかってるから平気だよね。うん。
「かぁらだ、あらわ、ひんそー、いいえ」
体の露出が多くて恥ずかしいけど変じゃないですか、と言いたいんだけど、どうも難しい。おなかを手で隠してもじもじしてたんだけど、私の手をどかしておなかをつつかれた。どうせぷよぷよですよ。半月運動したところで大差ありませんよ。
「さわる、めー」
指をぺちぺち叩いてどかせる。今日は並んで座っている。この前は向かいだったのになんでこんなに近づいているんだろうか。まあ、長さんなんてすぐ膝の間に座らされたし、こっちのひとは距離感近いんだろうな。
どこかお店に行くのかと思ったら、ホテルでルームサービスをとっていた。疲れてたから、その方が嬉しい。
しかしこの格好では少し肌寒い。何か羽織るものが欲しい。
「さむい、しゃむぅい、うえ、のしぇる」
肩掛けがほしい、とジェスチャーで示した。
「いいよ」
おじ様はにっこり笑顔で、膝の上に私を乗せた。違う。首を振り降り、ちがう、と意思表示をした。
「からだ、さむいぃ、あたかい、ちょーだい」
「うん。さむいね。マリカはあったかいよ」
「あたたかちがう。ウイブイエルイさま、しゃむい、つめた」
青い人は体温が低くて、体を寄せてもあまり温かくない。抱き囲まれている分すこしはマシだけど、おなかを手で触られたりするとむしろ冷えそう。
おじ様は笑顔のまま、スープをスプーンで掬うとふうふうしてから、私の口元へ押し付けてきた。ぬるいスープだ。これを食べて温まれということだろうか。
食べるけど、食べるけど……肩掛けください。っていうか、翻訳カチューシャください。
なんだか体が温かくなってきた。疲れもあって、ぼんやりとおじ様にもたれかかる。なんとかひざ掛けを持ってきてもらえたので、足にかけていたそれを胸まで引き上げて、うつらうつらしている。このまま眠れたら幸せだ。
ひざ掛けの端から手がもぐりこんできて、おなかに添えられた。冷たい。くすぐったい。
「つめた、さわる、めー……眠いの、寝る……」
「うあ!」
寝てしまった。飛び起きると、おじ様に抱っこされたままだった。どれくらい寝てたんだろうか。
「……ごめんにゃさぃ」
「いいんですよ」
きょろきょろと辺りを見回す。能面のような顔をしているヘルさんがいた。……どうしよう。
「ヘル、ちょうだい」
頭を指差して、翻訳カチューシャをねだる。すぐに近づいてきて、私を立たせると頭に飾った葉っぱを取り外してからカチューシャをつけてくれた。ヘルさんなら私の言葉もわかってくれるのになあ。
「ちょっと疲れてて……うまく言葉も出ないし、練習はまた今度にします」
そうしよう。おじ様は少し残念そうだったけど……ああ、つかれた。
息苦しくて目が覚める。ヘルさんにちゅーされていた。かなり明るくなっている。もう朝だった。
昨夜はおじ様との食事を終えた後、すぐに寝た。眠くて眠くて……。お風呂はもとより、体を拭いてもいない。綺麗にしないと。服もそのまま寝たはずなのに、いつの間にか寝巻きに着替えられてる。おなかを出したまま寝ていたら具合を悪くしていたかもしれない。よかった。服を着替えさせられても気が付かない危機感のなさはともかくも。
口の中でぐにぐに動いている舌を軽くかむと、私の舌を舐め上げてから離れていった。
「ん……おはよ……」
「マリカ……」
よだれがたれている。恥ずかしい。口を指でぬぐうと、その指をくわえてしゃぶられた。引き抜こうとするけど、吸い付かれていてなかなかできない。
「もう時間?」
「ああ。
マリカ、疲れたろう。もっとゆっくりさせてあげたいが……すまない」
「ううん。お風呂は入れる?」
「もちろん。今用意しよう」
心配かけてしまった。都にいるのは少しの間なんだから、頑張らないと。




