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世界の寵児  作者: もち
私が生まれた日
3/63

 なんだろう。近い。近すぎる。ヘルさんに布を巻きつけられた私は、そのまま彼の腕の中に閉じ込められた。ご存知のとおり彼は巨木。木のうろにすっぽりとはまっているかのような安心感が……あるわけがない。そんなものはない。むしろ恐怖心が沸き起こってくる。

 やっぱり食べられるのかもしれない。そんな気がする。彼が見せてくれた優しさのようなものはきっとまやかしだったんだ。17年とは短い人生だったなあと今までのことを振り返った。陽気なお父さんに、逞しいお母さんが、大事に私を育ててくれた。友達だってたくさんいた。周りの人は皆親切で優しかった。思えば私の運のよさは、そんなところにも発揮されてたのかもしれない。こう考えてみれば短い人生ということ以外は幸せだったんじゃないだろうか。


「こんなに震えて……。暖かいところで暮らしていたのですね。すぐに暖めますからお待ちください」


 彼は私を軽々と抱え上げた。重くはないんだろうか。いや重いわけがないな。身長がこんなに違うもの。大人と赤ちゃんだもの。ちょっと言い過ぎた。大人と幼児だもの。

 ヘルさんと私の距離は先ほどよりも近づいた。体を寄せていないと落ちるからね。べったりとね。私の現実逃避はまだまだ続きそうです。しばらくお待ちください。



 こんにちは。高橋万理歌です。

 私は今異世界にいます。お風呂であったまってぽっかぽかでですね。服も着せてもらったわけなんですけど、それがでっかい布をくるくると巻いて、サリーみたいな、アラビアンみたいな感じで、その上にさらにショールというかマントのようなものを羽織まして。足にはふにゃふにゃした布でできたルームシューズらしきもの。どでかいふっかふかのクッションの上に寝そべるように座っておりましてね。目の前に躓く大男に飲み物が入ったと思しきコップを差し出されております。

 どこの王侯貴族なんでしょう。


 のどは渇いてるけど、私はコップを受け取らなかった。

 だって、だって……ヘルさんが。いやもうさん付けなんてしたくない。名前でだって呼びたくない。

 現実逃避をしている場合じゃなかった。もっと現実を直視してきちんとお断りできていればあんなことにはならなかったはずなのに。

 このでっかいのがですね。お風呂にも入るのも、着替えるのも、当然のように全部、やったのです。男の人に。お風呂のとき見ちゃったし。ちらっとだけど見えちゃったし。

 せめて女の人ならよかった。このでっかいのにべったりしていたせいで周りの様子はしっかりとは見えなかったけど、確かに女の人だっていたのに。

 やめよう。17才の夢見る乙女にはあれの記憶は必要ない。

 落ち着け。現実逃避はお終いだ。

 目を閉じて、深呼吸した。現状把握は大切だ。気持ちを落ち着けたところで、ゆっくりと目を開けた。

 でっかいのは、切り分けられた果物を楊枝にさして、それを手に待機していた。


 あーん、とか、無理です。無理ですからね。

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