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夕食はお役人さん達と一緒に食べることになった。会食ってやつだろうか。こっちのテーブルマナーなんて全然知らないんだけどいいのかな。いや、元の世界でも正式なのを知ってたわけじゃないけど。
応接間に食事が並べられていた。いつもの大きなクッションに座る。今日は流石にだっこはされなかった。右側の少し後ろにヘルさんが、左にはクイさんが座っている。向かいにおじ様と眼鏡さんが座ると、食事が始まった。
「いつもそのようにして召し上がっているのですか?」
いつもと同じです、はい。いや、当たり前のようにヘルさんとクイさんが私に食べ物を口まで運んでくれたので、人がいるのにいいのかと思いはしたんだけど、いつものとおり、食べさせてもらってしまいました……。やっぱり駄目だよね、違うよね。恥ずかしい。
「あ……ご、ごめんなさい」
「いいえ、いいのです。私にもやらせていただきたいのですが」
「……え」
にじにじよってきた。おじ様に? 食べさせて? もらうの? 私が? なんで!
「従者のお二人が本当にうらやましい。今日だけなのですから、私にその場所を譲ってくれますね?」
「嫌です」
「ウイヴイエルイ、席へ戻ってくれないか。マリカも怖がってる」
食事が始まったばかりだというのに空気が悪い。そこの眼鏡さんも、上司の人が暴走してるんだから止めてくれないと。しかし、にじり寄ってくるのはとまったけど、そこからどなたも一歩も動かずにらみ合いに。
これをまとめるのってもしかして私の役目? うわー、気が重い。
「あの、私、ここでの食べ方をよく知らなくて、二人にはいつも手伝ってもらってたんです。
でも、あの……一人で食べます……」
わーん、無理だよー。みんなの視線が突き刺さってくる。頑張ろうとは思ったんだ。結果はこれですけど。
「マリカ様がお困りですよ。ウイヴイエルイさん」
まさかの助け舟は眼鏡さんだった。
しかしおじ様はじーーーーーっと私を見たままなんだか悲しそうな目で私を見ている。どうしよう。なんだかものすごく慰めないといけないような気がする。
「お、おじ様……あの、あの、あ、あーん」
とっさに、一番近くにあったものを手にとって差し出した。私用に小さく切られた野菜スティックだ。
体を思い切り伸ばして、口の側まで持っていく。そうしたらぱくっと……ぱくっと、私の指ごと食べられた。舐られた。
すぐにヘルさんが指を引き抜き、フィンガーボールで洗った。そりゃあもう念入りに。それ、失礼には当たらないのかな。
なんでかおじ様はどんどん近づいてくる。なんだかうっとりした表情で、色気が、そう、色気を撒き散らしている。私の腕をつかもうとしたところで、ごすっという大きな音がした。ヘルさんが、おじ様の頭を殴ったようだ。
「離れろ」
「……本当に、なんて了見の狭い……。マリカ、側に寄ってもかまいませんね?」
「だだだだめです!」
思った以上に強い調子で言ってしまったが、少しつまらなさそうな顔をしただけですぐ戻ってくれた。ごめんなさいなんかもうほんとごめんなさい。だってヘルさんご機嫌斜めなんです、だっこされちゃって腕の中にはまりこんで動けないんです。
ヘルさんには締め付けられ、クイさんは何事もなかったかのように私の口に食事を運び、おじ様には熱のこもった視線を向けられ、眼鏡さんは淡々と空気のよう。ろくに会話もなく会食は終了した。
疲れた。部屋を移ると、ヘルさんとクイさんにお説教された。
「マリカ、あんなことしてはいけない。私だってしてもらったことがないのに、私にだけやっていれば良いんだ」
「ウイヴイエルイに奉仕しなくていいんだよ。ちゃんと主としての自覚を持ちな。つけあがるだけなんだからね」
お客様に失礼だったとか言うことで怒られるのかと思いきや、こっちの人はお説教するポイントまでずれている。