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世界の寵児  作者: もち
出会い、はじまり
27/63

 今日は、私の担当のお役人さんと会うことになった。またしてもあの開放感にあふれた部屋にやってきた。この部屋は応接間になるらしい。

 クイさんとヘルさんが二人揃って近くに立っている。改まった雰囲気で緊張する。


「本日の面会者、ウイヴイエルイとキュジィギュジィクランの2名です」


 名前を覚える気はもうない。無理だ。別に私の頭が悪いわけではない。複雑な響きすぎるだけだ。

 呼ばれて入ってきたのは、わりと年配の人と、まだ若い男性の二人組みだった。年配の人のほうは、白みがかった青い髪の、ロマンスグレーといいたくなるような紳士然とした渋いおじ様だ。若い男の人は、眼鏡をかけ、紫の髪で、女たらしっぽい。当然どちらも、青い皮膚の人たちだ。このお屋敷にいる人も皆青い人たちで、まだ他の種族の人を見たことはない。そのうち会ってみたい。特に大きな獣の姿をした人たちに会うのが楽しみだ。もふもふしたい。


「はじめまして、マリカ様。ウイヴイエルイでございます。聞き及んでおりましたとおり、大変愛くるしいお方で、こうして出会えました幸運に胸が高鳴っております」


 キラっと牙が光る。魅力的……なんだろうと思われる笑顔だ。なんてたらしなおじ様だ。声も朗々として渋くて素敵なのに、なんだか残念な人だった。


「万理歌です。あの、様とかはいいので……よろしくお願いします」


 つい頭を下げそうになるのを我慢した。お辞儀というのはここではしないものらしい。こらえて、おじ様に視線を向けると俯いて胸を押さえていた。


「え、あ、どうしたんですか?」


 病気だったらどうしよう。私が慌てていると、顔をぐわあっと勢いよくあげた。怖い。


「なんて可憐なお声でしょう! 小鳥の歌声のようですね。いつか私のために歌ってくださいませんか」


 そんな褒められるほどの声でもないと思う。大体、歌は好きだったけど、得意でもなんでもない。友達とカラオケならともかく、人前で歌うのなんてごめんこうむる。


「あの、おじ様? 私、そういうのは……」

「ウイヴイエルイ殿、戯れが過ぎます」


 もごもごとお断りしようとしていると、ヘルさんが助け舟を出してくれた。たとえ偉い人にでも、嫌なことは嫌だって言っていいとは言われてるけど、ノーと言えない日本人の私には難しいものがある。


「せっかく私に話しかけて下さっていたのに……。従者殿は了見の狭い方だ。

 マリカ、ウイヴイエルイをどうぞお引き立てください。私はあなたの僕です。なんでもご用命ください。すぐに参ります」


 従者に続いてしもべができた。従者としもべって同じものじゃないのか。ここまで親切丁寧な扱いだと恐縮してしまう。というかあまり人に囲まれるのも困る。


「キュジィギュジィクランをこの社付きにいたしました。どうぞ存分にお使いください」

「よろしくお願いします」


 眼鏡の若者は表情も変えず、淡々としている。なんだか今まで出会った人たちが濃すぎて新鮮だ。



 庭、というか原っぱでお弁当を広げる。私以外はお昼は食べないらしいので、お弁当を作ってもらうことにした。爽やかな気候なので、ピクニック気分で外で食べるのが気に入っている。

 今日はヘルさんはさっき会ったお役人さん達と話があるらしくて、クイさんと一緒だ。


「あのお役人さん達、しばらくいるの?」

「ウイヴイエルイは明日には帰るって聞いてるけど、キュジィギュジィクランはここに残ることになってるね」

「え、ここに住むの?」

「宿舎に入る予定だけど、気になるなら村にでも行ってもらうよ」


 宿舎はお屋敷のすぐ側に建っている長屋のことだと思う。そこにお屋敷で働いている人が住んでいる。

 色々お世話になっている身分でどこかへ池なんていえるわけがない。大体、村って浮遊艇で1時間かかるらしいじゃないか。そこから通うのは大変だろう。通う必要はないのかな。まあ、どちらにしろ私が何か言うことじゃない。


「ううん、気にならない。

 あのおじ様、すごいね。しもべなんてはじめて聞いた」

「いつでも呼びつけて貢がせたらいい」


 貢がせるって……。そんなこというクイさんは結構悪女なんじゃないだろうか。

 大体そんな小悪魔なこと、私には出来るとはおもえない。


「ありがとうおじ様、とでもいって頬に口付けてやれば大喜びだよ」

「むりだよー」

「しもべになりたいってのは、そういうことだよ。主のためになんでもしたい、させてください、って向こうから言ってるんだから、使ってやればいい」


 さすが異世界。私の常識とはかけ離れていて戸惑う。でも、あんなに年上の人をこき使うようなまねはできない。なんだか偉そうな人だったし。


「そういうの、普通なの? こっちでは」

「あたしは言われたことないけど。美人の友達はよく侍らせてたねえ。

 ウイヴイエルイだって、ありゃ普段は侍らせる側だ。いい男だよねぇー」


 クイさんがそういって、ふぅ、とちょっと色気のあるため息をついた。確かに素敵なおじ様だった。蛾だのスライムだのを褒めるヘルさんを見ていると美意識の違いを感じたものだけど、この様子だと変わっているのはヘルさんのようだ。


「渋いおじ様だよね。声も素敵だったし」

「前にヘルベルクランの声も褒めてたね。マリカはいい声に弱いのか」

「えっ、そ……そんな、ことは……」


 ああー、なんだろう、このこいばなでもしているかのような、気恥ずかしさは。

 声が好きって言ってもそんなのじゃない。と思う。


「ヘルベルクランももてるんだよ。社の若い召使に色目使われてるし」


 ヘルさんは優しいし、顔も甘い感じだし、女の人にもてるのはなんとなくわかる。いや、なんとなくじゃなく、まあそうだろうな、と思うだけだ。


「あまり相手にもしてないけどね」


 うつむいた頭を持ち上げられて、唇に軽くキスされた。クイさんにキスされたのは、初めてかもしれない。クイさんはいつもは、歯型がつかない程度のあまがみをよくしてくる。

 私は立ち上がってクイさんの頬に口付けた。今までヘルさんにしかしたことなかったけど、別に他の人にしちゃいけないわけじゃないはずだ。


「可愛いね、マリカ」


 クイさんの声は笑いを含んでいるようで、からかわれている気分になった。


「もうしない!」


 急に恥ずかしくなって、そっぽを向いた。クイさんはもう完全に笑っている。笑い上戸だ。しかも私にはよくわからない笑いのツボを持っている。ごめん、と言いながら頭をなでてくれたけど、絶対、悪いと思ってない。

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