表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の寵児  作者: もち
未来への約束
21/63

過ぎた日の約束のヘルベルクラン視点になります。

 とろんとした目で私を見た。小さな口が薄く開いたままぷるぷると震えている。そこから少しだけのぞく柔らかそうな舌。こんなに可愛い、愛くるしいものを私は他に知らない。


「おはよう」

「……ぉあ……おはようございます……」


 寝起きで口が回らないのか、たどたどしい。それが私の欲を刺激する。

 顔中、口の中まで嘗め回した。本当は牙を打ち立てたい。駄目だ、傷はつけたくない。口の中は狭く浅い。奥まで舌が届いた。暖かく、甘い。ああ、涎が止まらない。あふれ出るそれを、マリカは従順に飲み込んでいた。

 皮膚を赤く染め、瞳を潤ませて、細い吐息を漏らす。興奮しているようだ。一族の女と反応は似ている。比べ物にならないほど可愛らしいが。優しくとは、まずはこれくらいだろうか。最後に、浮かんだ涙を吸い取った。


 通信具で召使とクイグインネに連絡を取る。洗顔道具や、朝食、服の手配を頼んだ。それが終わればクイグインネに会うことになる。気が重い。こんなに可愛らしいマリカを見たら、誰でも手に入れたいと思うに決まっている。心配だ。

 部屋を明るくし顔を拭いていると、目元が赤くなっているのに気が付いた。こすってみるが、さらに赤くなってしまった。昨日吸い付いたせいかもしれない。少しの刺激でもこうなってしまうようだ。気をつけなければ。


 寝台の上に朝食を運んで手ずから食べさせる。このように朝を過ごすのは、番になったもの同士で行われる親密な行為だ。恥ずかしがって自分で食べるなどといっていたが、遠慮はしなくていい。今朝は肉を用意させたが、薄く切られていた。腹が立つほど気が利く召使いだ。私が噛み千切って口移しでやりたかった。

 今日の予定を話しながら服を着せ、ベールをかぶせる。予定といってもクイグインネに会うだけだが。今日の服は紺。なるべく地味に、興味をもたれないようにと選んだが、その意味では失敗した。この色は乳白色の肌を際立たせ、ベールの向こうから黒い瞳がきらきらとしており、覗き込んで確かめずにはいられない。どんなものを着せても魅力があふれ出てしまう。困った。ああ、できることなら、誰にも会わせず閉じ込めたい。


 何を着せても似合ってしまうのだから仕方がない。諦めてそのまま抱き上げると、応接室へ向かった。



「今から二の従者であるクイグインネを紹介します」


 部屋の近くに待たせていたクイグインネを呼ぶ。いつみても厳つい女だ。マリカとは大違いだ。大体なんだあの服は。若作りするないい年して恥ずかしい。

 マリカが見られているのが、たまらなく私をいらだたせる。


「あたしはクイグインネ。よろしく」

「万理歌です。あの、よろしくおねがいします」


 よろしくしなくていい。マリカは首をかくんと動かした。


「マリカ、そんなことをしたら頭が取れてしまう」

「いくらなんでもそこまで脆くはないだろう」


 マリカの華奢さを知らないからそんなことが言えるんだ。知られたくはないが。

 しかしこの女、じろじろと不躾にマリカを見て、か弱く頼りなげな様子に不安を覚えたようだ。


「……折れないよな?」


 その心配は私がしている。お前は何の興味も持たなくていい。


「それじゃ今日はあたしが世話するから。ヘルベルクランは休んでな」

「断る」


 私を離して何をする気だ。

 しかしクイグインネも引かない。なんだかんだといって私を追い出そうとする。女同士の話もあると言われると、性別ばかりは私にもどうしようもないだけに黙るしかなかった。

 ……それに。

 イライラがやまない。落ち着けるため、少し席をはずした方がいいのかもしれない。マリカをずっと、閉じ込めておくことはできない。私に何かあったときのためにも、少しは慣れさせておかなければ。


「マリカ、いじめられたら言うんだぞ」


 仕方なく、本当に仕方なしに、部屋を出た。

 マリカが生まれたばかりで、やらなければいけないことはたくさんある。とりあえず、長や多種族との会見が終われば、ひと段落だ。生まれた報告はクイグインネがしているはず。すぐに役人が来るだろう。折衝はそいつに任せて、早くマリカのことだけをできるようにしたい。まずは詳しい報告書を出さなければ……。それはクイグインネに任せればいいか。そろそろ話も終わっただろう。

 執務室へ向かっていた足を応接室へ向ける。


「ひいい!」


 悲鳴が聞こえた。

 マリカに覆いかぶさるクイグインネ……。


 あのおんな。じごくへおちろ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ