2
「好きかも」
聞き逃せない言葉が聞こえた気がする。思わず聞き返してしまう。
手のひらに、鼻や唇があたっている。マリカの温かい息がかかってこそばゆい。落ち着いたのか、柔らかい声だった。
「優しいから……」
私のことを好きだという。
心を押し殺して慰めたかいがあったというもの。マリカの特別になれるのなら、これからも望むだけ優しさを贈ろう。
「私も好きだよ、マリカ」
マリカは甘えるように擦り寄ってきて、眠るまで側にいて欲しいなどと可愛い事を言う。朝まで一緒にいるに決まっている。これから毎晩一緒だ。体は小さいがなんとでもやりようはある。色々教えてあげよう。優しく。そう優しく。マリカは優しいのが好きといっていた。
幸せな未来に浸っていたというのに、クイグインネから通信が入ってきた。
(様子はどうなってるんだい)
(今添い寝をしている。もう寝そうだ)
マリカを見た。目を閉じて、うっすらと開けたままの口から小さな寝息がもれている。幸せそうな寝顔だ。
(どんな子なんだ?)
(名はマリカ。女だ。体は小さいが姿は私たちに似ている。おとなしくて、かわいらしい)
(あんたは寵児だったらどんなでもそういうんだろうさ。あー、通信で話すのも面倒だ。寝たらちょっとこっちにきてくれよ)
(駄目だ。側にいるように言われている)
(ずいぶん仲良くなったねえ)
(私を好きだといっている。もう少し大きくなったら番にする)
(……まあ……二人が良いならいいんだが……。明日は会えるんだろうね)
クイグインネは二の従者だ。いつまでも会わせない訳にはいかない。
(明日食事が終わったら連れて行く。それでいいだろう。もう通信は終わらせる。いいか)
(え、あー……まあ、いいか。じゃあ明日な)
煩い女だが、あまり寵児には興味がないので、私には都合がいい。従者は男女がそれぞれ一人はつくように決められている。私の邪魔をしなければ誰でもよかった。あの関心の薄さがずっと続けばいい。
薄暗い部屋の中で、二人きり。私は誰にも邪魔されることなく、眠るマリカを眺めて楽しんだ。