4
「何泣いてるんだ。ああ、目玉が取れちまいそうじゃないか。
あたしがなにか気に触ることを言ったかい? ごめんよ、口が悪いってよく言われるんだ……泣くことないだろ、ごめんよ、ごめんったら……」
違う、ぐいぐいんさんが謝ることなんて何もない。ヘルさんがいなくなっちゃったのが悪いんだ。私の精神安定剤はどこへいった。
自分が着ている服の袖を目元に押し付ける。泣いてる顔を見られるのは恥ずかしい。
「ち、ちが……寂しくて、ヘルさんがいないの」
「あたしがいるだろ。ほら、顔を見せて」
ぐいと上を向かされ、残った涙の跡を舐め取られられた。それ、ここの人たちの作法なんですかね。私も泣いてる人をみかけたらやらなきゃ駄目ですか。
「マリカは味がついてるんだな。美味しい……」
ほっぺたかじられた。牙が顔に当たっている。何この怪しい感じ。涙も胸苦さもふきとんだ。
「あの、ぐいぐいんさん……?」
「塩気があって、ちょうどいいね」
「ひいい!」
くびを かじるのは きんし
助かった! 助かったよ! 私のナイトがきてくれたよ!
「死んで詫びろいますぐに」
「悪かった。いや、寵児ってすごいわ。こういうことかー」
私にかじりついてたぐいぐいんさんを、ヘルさんが引き離してくれた。助かったけど、そのときのヘルさんの表情はそりゃあもう……。一難去ってまた一難ってこういうことを言うんだ。
「あとあたしの名前はクイグインネだから。覚えてくれ」
「クイでいいだろう。マリカの小さな頭に負担を強いるな」
ヘルさん何気に私のこと馬鹿にしてませんか。傷つきました。ぐいぐ……間違えた、クイグイン……? クイさんでもういいや。クイさんも悪いことをしたとは思ってなさそうな感じだ。
「生まれたばかりだから、まだ不安定なんだ。少しならと思ったが駄目だな。
話はもう良いだろう。とっとと出て行け」
「やだよ。独り占めしようったってそうは行かない。あたしだって従者なんだ」
「生まれたときに側にいたものになついて、引き離されると不安を覚える。あの時あの場にいたのは私だけなんだから、私だけがいればいい」
「なんだそれ。そんなの知らないよ! 知ってて黙ってたなヘルベルクランの阿呆!」
「今までさして興味もなかったくせに」
「過去は過去だ。マリカ、今すぐあたしに慣れろ」
まさにカオス。……なんでこんなことになってるの?




