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ぐいぐいんさんは、私の近くに寄ってきて、ベールを取ってじろじろと眺めた。
「なんかまたずいぶん古めかしい服着せられたねえ。ヘルベルクランは懐古趣味が過ぎるよ。
あたしが着てるみたいな服の方が動きやすくてよくないかい?」
「え、えと、このままで大丈夫、です。はい」
そのレオタードみたいな服よりは断然こっちの方がいい。
「んー。おとなしいとは聞いてたけど、本当だねえ。言いたいことがあったらいつでも言うんだよ。ヘルベルクランにいいように扱われないか心配だよ。
そうだそうだ、聞きたいことがあるんだ」
「あ、はい。なんでしょう」
「ヘルベルクランの嫁になりたいのか?」
どこからでてきたそんな話。
「なんでそんな話に……」
「やっぱり違うのか? 好きだって言われたから結婚するって言ってたぞ。来たばっかりのはずなのにおかしいとは思ったんだけど、なにか心当たりはあるか?」
そうか。あれか。昨日の。
いや、声が好きとは言ったけど、なんでそれが結婚に結びつくのか。
……声が、って言ったっけ?
「ああー……」
声が、とは言ってない。それにしたって過程が色々飛びぬけている。今朝のあの行動も結婚するんだからいいよね、ってことか。よくないけど。
「たしかに言ったんですけど……。でも声が素敵だなって、そういう意味で……」
「勘違いしてるのか。
ヘルベルクランは元々寵児愛好家でね。だから言葉一つで舞い上がっちゃったんだろうけどさ。マリカもちょっと気をつけてくれ。寵児ってただでさえ好かれやすいんだ」
「そうなんですか?」
「愛さずにはいられないからこそ寵児なんだろ。前はフフって子で、シェシェシェ族のところにいたんだけど、ヘルベルクランはあんなとこまで会いに行ったらしくて、フフさまがどうたらって何度も聞かされたよ。
そんなにいいもんかねえって、思ってたんだけど。こうして会ってみると確かにかわいいもんだね」
ぐいぐいんさんは、にこっと笑って指の腹で私の頬をなでた。それは優しいしぐさだったのに、私はほかのことに気をとられていた。
ヘルさんがフフさんに会いに行った話を聞いたら急に胸が苦しくなって。
たとえ過去でも、私を放って、どこかにいかないで。