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またしても新しい部屋に来た。この部屋はなんというか、開放感にあふれている。まずドアが見当たらない。部屋の入口はカーテンがかかっているだけだし、テラスに出られるようになっているけど、そこはすだれで区切られている。
今日きている服は紺色の布をぐるぐる巻きつけられたものだ。同色のベールをかぶせられていて、うっとおしい。取ろうとしたら、何も言わなかったけどものすごく嫌そうな気配が察せられたのでそのままにした。私は空気の読める子です。
「今から二の従者であるクイグインネを紹介します」
またしてもなんて覚えにくい名前だ。
その人はすぐに部屋に入ってきた。40才くらいの女の人だ。青白い肌の色はヘルさんと変わらないけど、赤い髪の毛をしている。多分、ヘルさんと同じ種族だ。女の人も大きいようだ。ぴったりとしたスポーツウェアっぽいものをきていて、体の線が丸出し。がっちりと筋肉質で、ボディビルでもしていそうだ。しかしこの服、私が着るとしたらかなりの勇気がいる。ヘルさんや私が着ているのとはずいぶん雰囲気が違う服だ。
「あたしはクイグインネ。よろしく」
「万理歌です。あの、よろしくおねがいします」
片膝を床につけ、もう一方はたてたままで、しっかりと背筋を伸ばしている。なんだか凛々しい人だ。
私はぺこりと頭を下げた。
「マリカ、そんなことをしたら頭が取れてしまう」
ヘルさんがいたって真面目な顔でそんなことを言った。取れるわけあるか。この人過保護すぎはしないか。
「いくらなんでもそこまで脆くはないだろう。
……折れないよな?」
ぐいぐいんさん?不安になったのか恐る恐る聞かれた。そんなに弱そうだろうか。
「それじゃ今日はあたしが世話するから。ヘルベルクランは休んでな」
「断る」
「昨日はずっと側にいたんだろ。最初の世話を任せてやったんだ、それだけでも感謝して欲しいくらいだ。
ほらさっさといきな」
ヘルさんがこの世のものとは思えないほど恐ろしい顔をしている。それをまったく気にかけることなく、ぐいぐいんさんは体全体で入口の方へ押しやった。
「女同士で話したいことだってあるんだよ。とっととでてけ」
「マリカ、いじめられたら言うんだぞ」
「そんなことするわけがあるか!」
ぐいぐいんさんはヘルさんの腿の辺りを膝蹴り。それに対してヘルさんはぐいぐいんさんの肩を拳で殴りつけ、そのまま出て行った。
なんてバイオレンス。仲良くなったらあんな感じになってしまうんだろうか。私がされたら骨がぽっきりいきそうだ。