表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の寵児  作者: もち
夢を見るより近い場所
13/63

 薄暗い寝室には、幾重にもかさなった紗でできた天蓋付きのベッドが鎮座していた。ベッドは当然でかい。これはベッドではない。断じて違う。もはや部屋である。

 そのど真ん中に下ろされ、薄くて柔らかい掛け布団をおなかまでかけられた。

 ああ、そうです。当然のように抱きかかえられて運ばれましたよ。そしてこれまた当然のように私の隣に寝転がるヘルさん。おかしいよね。おかしいんですけど、あまりにも当然です、って態度なものだから、騒ぐのもおかしいんじゃないかと思ったりして。こんなだから周りの人にぼんやりしてて心配って言われるのか。

 そういえば、元々いた場所はどうなってるんだろう。服や鞄だけ残ってるのかな。怪奇失踪事件じゃないか。心配してるだろうな。


「何を考えてる」


 目元を舐められた。舌は冷たかった。


「なに舐めてるんですか」


 わかってる。私が泣いたからだ。なんだか犬みたいな人だ。恥ずかしく思わないわけではないけど、私が頼れるのは今この人しかいないんだから、かまわないだろう。手のひらを引き寄せて、それで顔を隠した。さすがに何度も舐められるのはごめんだ。


「帰れる?」


 他人より少しだけ運がいいというだけで、悪いことが起こるわけがないと思っていた。でも、今起きているのは、まさしく悪いことなんじゃないだろうか。

 私がなにやらすごく歓迎されていることはわかった。ヘルさんは親切だし、何も知らないところに放り出すようなことはないだろう。それは幸運なことといえなくもないけど。


 私は今、人生初めてとも言える不幸に不安を抱いていた。


「ヘルさん、お話をして」


 甘えているとは思うが、甘やかしてくれるうちは甘やかされていたい。今ならお父さんと呼んでもいい。声を聞かせて欲しかった。


「私たちは、マリカたちが世界を去るときのことを、死とは言わない。

 賢者と呼ばれる人がいた。彼は何でも知っていた。その人が世界を去るときに、これで帰れる、と言い残した。

 だから帰ることはできる。いつになるかは、わからないが」


 ヘルさんの声を聞くと安心する。

 顔の上に乗せた手は厚みがあってどっしりしている。

 どこもかしこも安定感のある人だ。


「マリカはこうして今、私に触れている。世界がつながったから、こうしてここにいるのだろう。

 ならば、マリカのいた場所は、夢より遠い場所ではない」


 ヘルさんの落ち着いた声は、穏やかで耳に優しい。

 姿が見えない方がいいなあ。いや、別に見たくもないような容姿って訳じゃないよ。ただもう、本当に巨木っぷりもだけど、色は青だの紫だの。人に見えないんですよ。

 でもね。


「好きかも」

「うん?」

「優しいから……」

「私も好きだよ、マリカ」


 私とヘルさんのほかには、誰もいない。ここは二人だけのゆりかご。


「眠ってしまうまで、側にいてくれる?」


 いつか帰れるって本当だろうか。もし、そうだとしたら、やっぱり私は、運がいいと思うんだ。


 手を離さないで。掴まえていてほしい。私がまたどこかへ消えてしまわないように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ