1
「だから、私を父と思ってくれ」
ああ、白く輝く牙がまぶしい。なにがだからなのかさっぱりわからないが、ものすごく、期待のこもった目で私を見ている。
扱いがおかしいなとは思っていたんですよ。17才の若い娘にする態度じゃなかったですよね。赤ちゃんか何かだと思われてるみたいでしたよね。ヘルさんと比べればそりゃあ小さく見えるかもしれないけど、向こうでは159センチという標準といって差し支えない背丈だった。それなりに育った体も見ておいてのその反応は非常に傷つく。
でも。従者といっていたけど、実質保護者になるのではないだろうか。そうなるとお父さんというのも間違いではない気がする。ちょっと若いようにも思うけど。
「お、お父さん……?」
笑顔のまぶしさが増した。なんだろう、逃げ出したい。
この世界のことがいろいろと書かれている本を見せてもらった。おおきな図鑑で、重くて私では持てないので、目の前に広げてもらう。まるで紙芝居だ。
見たことのない世界地図のページを広げ、大陸の一点を指し示す。
「ここがシンベンデールの社。この辺りが私たちシュムクイエの住む国だ。マリカには少し寒いみたいだけど、あと三月もすれば暖かくなるよ」
ちょっとした誤解があるようだ。別にそんなに寒くはない。裸でいれば肌寒く感じるけど、服を着ていればさわやかでちょうどいい気候だと思う。
「シュムクイエはマリカに一番似ているから、ここに来てくれたのかもね」
「似てる……かな?」
控えめに異議申し立てを行った。いろいろな点を鑑みて、私がヘルさんと同じ人間だとは思えない。ちなみに、ヘルさんをお父さんと呼ぶのはやっぱり遠慮させていただいた。呼ぶたびに捕食されかねない怖さを感じたもので。
「シェシェシェやテイェルベなら少し似たところもあるけど……」
困った顔をしながら、見せてくれたページをみて、確かにこれと比べればと納得せざるを得なかった。
他の種族の方々は、狼が立ち上がってたり、二足歩行のヘビもどきだったり、人魚や鳥人間だったからだ。