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次々に皿から果物を取っては私に名前を尋ね、すごい、すごいと連呼しながら髪飾りから知識を取り出している。新しいおもちゃに喜ぶ子どものようでほほえましい。
「こっちはどうかな?」
「バナナ香料のリンゴ! へんー」
口調もずいぶん気安くなった。きゃらきゃらと笑いながらも、もぐもぐと口を動かしている。乳白色に戻った肌が、頬だけ赤く染まっている。興奮するとこうなるのだろうか。
こうして食べてくれるうちにたくさん食べさせるべく、せっせと渡す。皿の上のものはだいぶ減ってきた。次は何を食べさせようかと考えていたが、満足げに腹を押さえて座椅子にもたれかけた。もういらないのだろう。他のものが食べたいということもあるかもしれない。
「果物は好きなんだね、マリカ。食べられないものはあるのかな」
頭を横にふるふるとゆるく振った。幸せそうな表情をしている。私も幸せだ。
汚れた口元をふき取る。本当は舐め取りたいが、それでは綺麗にするとは言いがたいだろう。次の機会を待とう。
「ヘルさんは何をする人なの?」
「私はマリカの一の従者だ。仕え、守るためにいる」
生まれてくる前は一の従者になれたことで満足していたが、今ではそれでは物足りない。マリカの特別な存在になりたい。どういえばいいだろうか。
「私は何も持ってない。こんな風によくしてもらってるのはどうして」
「マリカはこの世界の宝。宝は大事にするものだろう」
違う。私の宝。私だけの。
「私は人間だよ、宝じゃない」
頭を大きく揺らす。そんなことをしたら頭がぽろりと取れてしまう。手を伸ばして支える。触れた髪は柔らかく、指に絡んだ。
マリカが生まれてきた理由を教える。どれだけ、この世界に望まれているのか。
可愛いマリカ。愛しいマリカ。私だけが独占できるものではない。この部屋の外に出てしまえば、私以外の誰かにも愛される。
「生まれてきてくれてうれしいよ、マリカ」
そうなる前に、私を。私を、マリカの、誰にも侵されない場所に、いさせて欲しい。
「だから、私を父と思ってくれ」
これは私のものだ。かわいい私の子。他の誰にも、渡すものか。