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世界の寵児  作者: もち
私が生まれた日
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 私こと高橋万理歌は、他人より少しだけ運がいい。


 楽しみにしていたお出掛けの日に雨が降ることなんてなくて、晴れ女なのが自慢で。

 唐揚げが食べたいな、明日作ってもらおう、なんて思っていたその日の夕食は唐揚げだったり。

 犯罪に巻き込まれたこともなければ、大きな怪我だってしたことはない。

 それらは本当に些細なことで、偶然と呼べるくらいの幸運だ。

 だけど、私は私自身の運の良さを疑ったことがない。決定的な不幸が私の身に起こるはずなんてないと、幼い子どものような万能感を、17才になった今でも捨てられずにいる。


 だから、私の体に起こったこの不可思議な現象にも、驚き、困惑こそしたけれどたいして不安を抱かなかった。


 ふと目にした指先がガラスのように透けていくのも、手にした通学鞄の感触がなくなっていくのも、世界から私が消えていくのも。


 私は、他人より少しだけ運がいい。


 だから、この先に何が待ち受けているのだとしても、それは、私の不幸ではない。



 私の目の前にはやたらと飾りのついた服を着た大男がいる。30代も後半だろうか。落ち着いた雰囲気の大男だ。見たことがないほど青白い皮膚の色に、つやつやキラキラとした紫の髪の大男である。

 そう、大男だ。尋常でないほど大きい。かがんで膝を床につけているのに、そのうえ腰をかがめて背を丸めているのに、彼の頭があるのは立っている私の頭より上なのだ。

 身長だけじゃなく、身幅もありすぎる。私の倍はある。いや、3倍くらいいくかもしれない。どこの巨木か。

 彼はにっこりと笑った。多分、笑顔だったのだと思う。口から牙が見える。犬歯とかそんなかわいらしいものじゃない。サーベルタイガーもかくやといわんばかりの立派なものだ。そんな素敵なものを見せ付けられて、私は思った。


 食われる、と。


 戦慄の笑顔を目の前に動けずにいる私に、彼は私に向かって話しかけてきた。想像より穏やかな声だが、残念ながら何を言っているのかはわからない。

 大きな手が私に迫ってくる。足は動かない。青白い手は、私の頭の上に何かを置いた。されるがままにしていると、唐突に、彼の言葉が理解できた。


「大丈夫。いい子だ。言葉をわかるようにしているだけだから、落ち着いて」


 びっくりだ。見たこともないほど大男で、肌の色も不健康の範囲を超えた青白さで、髪の色だってどこのおしゃれなおばあちゃんかと思うような紫色で、牙がギラリとする獰猛な笑顔だけど、いいひとっぽい。


「あの、急にわかるように、いってることとか……。私のは、わかりますか?」


 少し声が震えてしまった。ひどくのどが渇いている気がする。目の前の大男は、私の頭にのせていた手をするすると、髪をたどって肩を通って腕から手まですべらせた。

 私の手が彼の手の上にのっている。今までいたって普通だと思っていた私のこの手が、ひどく小さく、赤く見えて、生まれたての赤ちゃんにでもなった気分になる。


「わかります。痛み、違和感、少しでも気になることがあればすぐにお知らせください。

 この世界へようこそおいでくださいました。

 私はヘルベルクランと申します。いかなるときもお仕えし、どんなものからお守りします」


 私の手は持ち上げられ、両手に包まれた。


 とりあえず私を食べたいわけではないようだ。さすが私。運がいい。

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