学歴で見下されていた俺、同窓会で婚約者が全てひっくり返したので帰ります
同窓会。
懐かしい顔ぶれが集まるはずの場所で、
なぜか妙な空気が流れていた。
学歴で人を測る声。
笑いの中に混じる、あからさまな優越感。
――ああ、こういう空気は変わらないんだな。
そう思った、その時。
すべてをひっくり返す一言が、静かに落ちた。
※短編です。サクッと読めます。
同窓会の会場は、妙に騒がしかった。
懐かしい顔ぶれのはずなのに、
どこか落ち着かない空気が漂っている。
「お前、高卒だったよな?」
その一言で、場の空気がわずかに歪む。
「よくそれで就職できたな」
男は笑った。
「俺? 一応、有名私大だけどさ」
わざとらしく肩をすくめ、こちらを見る。
「やっぱ違うわ。これまでの話聞いてても、仕事とか考え方のレベルがさ」
クスクスと、抑えきれない笑い。
「なあみんな、見てみろよ」
グラスを揺らしながら、指を向ける。
「“努力しなかった側の人間”って感じしない?」
「いわゆる負け組ってやつw」
視線が集まる。
苦笑いを浮かべる者。
目を逸らす者。
――何も言わない者が、一番多かった。
俺は、静かにグラスを置いた。
「……悪い、俺はここで帰るわ」
「は?」
男が眉をひそめる。
「婚約者が迎えに来るんだ」
一瞬の沈黙。
そして――
「お前に?婚約者?」
吹き出すような笑いが広がる。
「マジかよ、いたのかよそんなの」
「似た者同士ってやつか?」
「どんな女か逆に気になるわ」
嘲る声が重なる。
俺は何も言わず、会場を出た。
夜の空気が、少しだけ冷たい。
そのまま歩き出した、その時だった。
「……今の話、全部聞こえていました」
静かな声。
振り返る。
そこには、一人の女性が立っていた。
いつからそこにいたのか分からないほど自然で――
けれど、その存在だけが、異様に際立っている。
大きな瞳。
整った顔立ち。
ただ立っているだけで、
周囲の空気が塗り替えられるような存在感。
「お待たせしました」
その一言で、胸の奥のざらつきが消えた。
「あれ?帰るのかよ」
あの男だった。
「へぇ……その人が婚約者?」
値踏みするような視線。
(なんで高卒の負け組男が、こんないい女と?)
男の口元がわずかに歪む。
「初めまして」
妙に馴れ馴れしい声。
「こんな底辺な男より、俺の方が楽しませてあげられますよ」
胸を張る。
「一応、有名私大出てまして。エリートなんで」
その言葉に、女性はわずかに首を傾げた。
「そうですか」
静かな声。
「ちなみに私は、東大ですが」
――空気が、凍りついた。
「……は?」
男の顔が引きつる。
「父がIT企業を経営していまして。アークライト株式会社の代表です」
周囲がざわつく。
「……あの超一流企業の?」
誰かが小さく呟く。
女性は、ただ静かに頷いた。
それだけで、すべてがひっくり返る。
「……すごいですね」
(.....待て、嘘だろ.....俺の会社の親会社じゃねえか.....)
男の声は、もう震えていた。
「……それに」
彼女は、ほんの少しだけこちらを見る。
「彼は、私の会社でもトップクラスのエンジニアです」
一瞬、時間が止まる。
「いえ――」
静かに言い直す。
「正確には、私が何度もスカウトした人です」
ざわめきが広がる。
「ですが」
彼女は続けた。
「彼は“学歴より実力で評価される場所で働きたい”と、すべて断りました」
その言葉は、静かで――
けれど、確かに重かった。
一拍。
「……補足しておきます」
視線が集まる。
「彼は、私の会社――いえ」
ほんの僅かに言葉を選ぶ。
「世界でも知られている、セキュリティエンジニアです」
空気が揺れる。
「……え?」
誰かが声を漏らす。
「それって、まさか……ホワイトハッカーってやつか?」
ざわめきが広がる。
彼女は、静かに頷いた。
「ええ」
そして――
ほんの少しだけ、誇るように。
「人は彼のことを、敬意を込めてこう呼びます」
一瞬の静寂。
「――スペクター、と」
空気が、止まった。
そして。
「.....スペクターって、あの.....?」
「待って、検索する.....」
「......っ、嘘でしょ......」
誰も、言葉を発せない。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
男が焦った声を出す。
「こんな奴が、こんな低学歴男が、あのスペクター?」
「なんで、こんな奴が……」
その瞬間。
彼女の瞳が、すっと細められた。
「……“こんな”?」
空気が冷える。
「あなたは――彼に、どこか一つでも勝っているところがありますか?」
言葉が落ちる。
男の口が、開いたまま止まる。
「学歴、ですか?」
一歩、踏み込む。
「それで、何か証明できましたか?」
視線が泳ぐ。
「中途半端な肩書きで人を見下して」
一拍。
「楽しいですか?」
「……っ」
言葉にならない。
背後で、小さな笑いが漏れる。
「さっきまであんなに偉そうだったのに……」
「ちょっとダサすぎない?」
空気は、完全に逆転していた。
男は唇を噛み締め、ただ下を向くことしかできなかった。
彼女はそれ以上、何も言わない。
ただ、そっと俺の手を取る。
「行きましょう」
それだけで、十分だった。
俺たちは、その場を後にする。
――もう、振り返る必要はなかった。
しばらく歩いたあと、俺は小さく息をついた。
「……レイカさん」
彼女がこちらを見る。
「まさか、あそこで俺の正体ばらすなんて……良かったんですか?」
少しだけ苦笑する。
「秘密だったんでしょ?」
その瞬間――
レイカは、さっきまでの凛とした表情をふっと崩した。
「だって〜」
少しだけ頬を膨らませて、
「貴方がバカにされるの、耐えられなかったのよっ!」
拗ねたような声。
さっきまでの空気を切り裂いた、あの冷たい視線とは別人みたいだった。
ーーでも
「……言っちゃった。私、あんな小物相手に、家柄だの学歴だの……最低に大人気ないことしちゃった……」
さっきまでの凛とした姿はどこへやら、自分の振る舞いを思い出して、恥ずかしさと自己嫌悪で消え入りそうな声。
隣で今にも泣きそうに、落ち込む彼女を見て、俺は思う。
(ああ、やっぱりこの人は……こういう人間臭いところが、たまらなく好きなんだよな)
世界を相手にする令嬢でも、東大卒のエリートでもない。俺のためにムキになって、後で一人で反省しちゃう、そんな彼女の優しさが愛おしい。
思わず、笑いがこぼれる。
(ああ……)
人前では見せない、俺にしか見せない表情。
そんなものを見せられたら――
さっきまでのやり取りなんて、どうでもよくなる。
俺は、軽く肩の力を抜いた。
「……レイカさん」
「なに?」
「ラーメン、食べて帰りましょう」
一瞬きょとんとして――
「……いいわね、それ」
ふっと笑う。
夜の空気は、少し冷たいまま。
だけど俺の心は、不思議と温かかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
※本文を加筆・修正しました。レイカの描写を中心に調整しています。
もし少しでも「スカッとした」「続きが気になる」と思っていただけたら、
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こういった短編もいくつか書いていこうと思っているので、
よければまた読みに来てください。




