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学歴で見下されていた俺、同窓会で婚約者が全てひっくり返したので帰ります

作者: ガックン
掲載日:2026/04/01

同窓会。

懐かしい顔ぶれが集まるはずの場所で、

なぜか妙な空気が流れていた。


学歴で人を測る声。

笑いの中に混じる、あからさまな優越感。


――ああ、こういう空気は変わらないんだな。


そう思った、その時。


すべてをひっくり返す一言が、静かに落ちた。


※短編です。サクッと読めます。

同窓会の会場は、妙に騒がしかった。

懐かしい顔ぶれのはずなのに、

どこか落ち着かない空気が漂っている。

「お前、高卒だったよな?」

その一言で、場の空気がわずかに歪む。

「よくそれで就職できたな」

男は笑った。

「俺? 一応、有名私大だけどさ」

わざとらしく肩をすくめ、こちらを見る。

「やっぱ違うわ。これまでの話聞いてても、仕事とか考え方のレベルがさ」

クスクスと、抑えきれない笑い。

「なあみんな、見てみろよ」

グラスを揺らしながら、指を向ける。

「“努力しなかった側の人間”って感じしない?」

「いわゆる負け組ってやつw」

視線が集まる。

苦笑いを浮かべる者。

目を逸らす者。

――何も言わない者が、一番多かった。

俺は、静かにグラスを置いた。

「……悪い、俺はここで帰るわ」

「は?」

男が眉をひそめる。

「婚約者が迎えに来るんだ」

一瞬の沈黙。

そして――

「お前に?婚約者?」

吹き出すような笑いが広がる。

「マジかよ、いたのかよそんなの」

「似た者同士ってやつか?」

「どんな女か逆に気になるわ」

嘲る声が重なる。

俺は何も言わず、会場を出た。

夜の空気が、少しだけ冷たい。

そのまま歩き出した、その時だった。

「……今の話、全部聞こえていました」

静かな声。

振り返る。

そこには、一人の女性が立っていた。

いつからそこにいたのか分からないほど自然で――

けれど、その存在だけが、異様に際立っている。

大きな瞳。

整った顔立ち。

ただ立っているだけで、

周囲の空気が塗り替えられるような存在感。

「お待たせしました」

その一言で、胸の奥のざらつきが消えた。

「あれ?帰るのかよ」

あの男だった。

「へぇ……その人が婚約者?」

値踏みするような視線。

(なんで高卒の負け組男が、こんないい女と?)

男の口元がわずかに歪む。

「初めまして」

妙に馴れ馴れしい声。

「こんな底辺な男より、俺の方が楽しませてあげられますよ」

胸を張る。

「一応、有名私大出てまして。エリートなんで」

その言葉に、女性はわずかに首を傾げた。

「そうですか」

静かな声。

「ちなみに私は、東大ですが」

――空気が、凍りついた。

「……は?」

男の顔が引きつる。

「父がIT企業を経営していまして。アークライト株式会社の代表です」

周囲がざわつく。

「……あの超一流企業の?」

誰かが小さく呟く。

女性は、ただ静かに頷いた。

それだけで、すべてがひっくり返る。

「……すごいですね」

(.....待て、嘘だろ.....俺の会社の親会社じゃねえか.....)

男の声は、もう震えていた。

「……それに」

彼女は、ほんの少しだけこちらを見る。

「彼は、私の会社でもトップクラスのエンジニアです」

一瞬、時間が止まる。

「いえ――」

静かに言い直す。

「正確には、私が何度もスカウトした人です」

ざわめきが広がる。

「ですが」

彼女は続けた。

「彼は“学歴より実力で評価される場所で働きたい”と、すべて断りました」

その言葉は、静かで――

けれど、確かに重かった。

一拍。

「……補足しておきます」

視線が集まる。

「彼は、私の会社――いえ」

ほんの僅かに言葉を選ぶ。

「世界でも知られている、セキュリティエンジニアです」

空気が揺れる。

「……え?」

誰かが声を漏らす。

「それって、まさか……ホワイトハッカーってやつか?」

ざわめきが広がる。

彼女は、静かに頷いた。

「ええ」

そして――

ほんの少しだけ、誇るように。

「人は彼のことを、敬意を込めてこう呼びます」

一瞬の静寂。

「――スペクター、と」

空気が、止まった。

そして。

「.....スペクターって、あの.....?」

「待って、検索する.....」

「......っ、嘘でしょ......」

誰も、言葉を発せない。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

男が焦った声を出す。

「こんな奴が、こんな低学歴男が、あのスペクター?」

「なんで、こんな奴が……」

その瞬間。

彼女の瞳が、すっと細められた。

「……“こんな”?」

空気が冷える。

「あなたは――彼に、どこか一つでも勝っているところがありますか?」

言葉が落ちる。

男の口が、開いたまま止まる。

「学歴、ですか?」

一歩、踏み込む。

「それで、何か証明できましたか?」

視線が泳ぐ。

「中途半端な肩書きで人を見下して」

一拍。

「楽しいですか?」

「……っ」

言葉にならない。

背後で、小さな笑いが漏れる。

「さっきまであんなに偉そうだったのに……」

「ちょっとダサすぎない?」

空気は、完全に逆転していた。

男は唇を噛み締め、ただ下を向くことしかできなかった。

彼女はそれ以上、何も言わない。

ただ、そっと俺の手を取る。

「行きましょう」

それだけで、十分だった。

俺たちは、その場を後にする。

――もう、振り返る必要はなかった。

しばらく歩いたあと、俺は小さく息をついた。

「……レイカさん」

彼女がこちらを見る。

「まさか、あそこで俺の正体ばらすなんて……良かったんですか?」

少しだけ苦笑する。

「秘密だったんでしょ?」

その瞬間――

レイカは、さっきまでの凛とした表情をふっと崩した。

「だって〜」

少しだけ頬を膨らませて、

「貴方がバカにされるの、耐えられなかったのよっ!」

拗ねたような声。

さっきまでの空気を切り裂いた、あの冷たい視線とは別人みたいだった。

ーーでも

「……言っちゃった。私、あんな小物相手に、家柄だの学歴だの……最低に大人気ないことしちゃった……」

さっきまでの凛とした姿はどこへやら、自分の振る舞いを思い出して、恥ずかしさと自己嫌悪で消え入りそうな声。

隣で今にも泣きそうに、落ち込む彼女を見て、俺は思う。

(ああ、やっぱりこの人は……こういう人間臭いところが、たまらなく好きなんだよな)

世界を相手にする令嬢でも、東大卒のエリートでもない。俺のためにムキになって、後で一人で反省しちゃう、そんな彼女の優しさが愛おしい。

思わず、笑いがこぼれる。

(ああ……)

人前では見せない、俺にしか見せない表情。

そんなものを見せられたら――

さっきまでのやり取りなんて、どうでもよくなる。

俺は、軽く肩の力を抜いた。

「……レイカさん」

「なに?」

「ラーメン、食べて帰りましょう」

一瞬きょとんとして――

「……いいわね、それ」

ふっと笑う。

夜の空気は、少し冷たいまま。

だけど俺の心は、不思議と温かかった。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


※本文を加筆・修正しました。レイカの描写を中心に調整しています。


もし少しでも「スカッとした」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや評価をしていただけると励みになります!


こういった短編もいくつか書いていこうと思っているので、

よければまた読みに来てください。


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― 新着の感想 ―
以前読んだのと少し内容が変わってたので、びっくりしました加筆・修正されたのですね。 以前のは少し?する部分があったのですが、今回の加筆・修正でスッキリしました。 とても面白かったです
優秀な人間ほど格付けには興味を示さないものなんですよね 有名私立ということは、裏を返せば難関国立を逃したとも取れる訳で、かませキャラの設定としては実は結構なリアリティだと感じます 学歴無くても、社…
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