第八話 魔力測定器とやっちゃった件
また父親が新しいおもちゃを買ってきた。
細長い棒状のもので、先端に丸い部分がついている。全体的にずっしりしていて、側面に小さなモニターがついていた。数字が表示される仕組みらしい。
——なんだこれ。
父親が俺に差し出しながら、何か説明した。言葉は半分しかわからなかったが、「握れ」「数字が出る」「魔力」という単語は拾えた。
魔力量を測るおもちゃ、ストライカーというらしい。
——魔力測定器か。
なろう小説でよく見る、あれだ。主人公が握って異常な数値を叩き出して周囲をざわつかせる、あれ。
——これはまだ何もやってないけど、また何かやっちゃうやつじゃないか。
自信があった。根拠はなかった。でも自信があった。
俺は棒を受け取った。
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一度目。
力を込めた。モニターに数字が出た。
——10パーセント。
——まあ、ウォーミングアップだ。
二度目。今度は少し本気を出した。
——15パーセント。
——落ち着け。
俺は深呼吸した。赤ん坊の深呼吸なので見た目はただの息継ぎだが、気持ちの上では深呼吸だった。
——次が本気だ。
俺は全力を込めた。毎日鍛えてきた魔力を、全部この棒にぶつけるつもりで握った。出し惜しみなし。全開だ。
「おらあ!」
声に出た。赤ん坊の「おらあ」なので、傍から見れば謎の奇声だったと思う。
次の瞬間、ストライカーがすさまじい音を立てた。
モニターが光った。何かが弾けるような音がした。父親が「おっ」と声を上げた。
俺は自信満々に数字を見た。
——見えなかった。
モニターが壊れていた。
音がやんだ。部屋が静かになった。
壊れたストライカーが、俺の手の中でひっそりと沈黙していた。
——やっちゃった。
俺は泣いた。
自分でも予想外のタイミングで、盛大に泣いた。父親が慌てて棒を取り上げた。母親が飛んできた。メイドも来た。
俺はしばらく泣き続けた。
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その日の夜、俺は天井を見ながら考えた。
——壊したのは不味かった。
でも——何かやっちゃった感はある。
さすが転生者だぜ、訓練は無駄じゃなかった
俺は密かにガッツポーズをした。赤ん坊の小さな拳を、天井に向けて。
誰にも伝わらなかったが、それでよかった。
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次の日、父親がストライカーをまた持ってきた。新しいものだった。交換してきたらしい。
——不良品だったのか。
俺の中で若干の敗北感があった。あの爆音は俺のせいではなく、おもちゃがもともと壊れていただけだった可能性が高い。全力の「おらあ」は、不良品相手に放たれた空振りだったのかもしれない。
——まあいい。仕切り直しだ。
俺は新しいストライカーを受け取った。
今度は落ち着いて、丁寧に魔力を流した。奇声は出さなかった。静かに、均等に、棒の中に魔力を通すイメージで握った。
モニターに数字が出た。
——75パーセント。
父親が何か言った。母親も頷いた。メイドも穏やかな顔をしていた。誰も驚いていなかった。ざわついてもいなかった。
——平均か。
会話の断片から、そういうことらしかった。75パーセントは普通の数値だそうだ。
——なるほど。
毎日球体で鍛えた結果が、平均値。チートなし転生の現実はそういうものらしい。
まあ——平均から始めればいい。
俺は棒を父親に返した。天井を見た。
——地道にやるか。




