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第四話 世界地図とおもちゃとなぜか意識を失った件

 ある日、父親が何かを持って帰ってきた。


 丸めた筒状のもので、広げると——ポスターだった。


 世界地図だった。


 子供向けらしく、色分けされた国々に可愛いイラストが添えられている。エッフェル塔。凱旋門。ブドウ畑。そういったものが、地図の一角にちりばめられていた。


 父親はそれを俺の部屋の壁に貼った。


 俺はその地図をじっと見た。


 ——やっぱりフランスだ。


 地図の中心がフランス周辺だった。ヨーロッパが画面の真ん中に来るように構成されている。日本製の世界地図なら太平洋が中心になるし、アメリカ製なら大西洋が中心になる。この地図はフランスを中心に描かれていた。


 つまりここはフランスだ。


 わかってはいた。でも改めて地図で確認すると、実感が違った。


 ——俺はフランス人になったんだな。


 前世では一度も海外に住んだことがなかった。出張で数回行ったことがある程度だ。それが今世ではフランスの富裕層として生きている。人生とは不思議なものだと思った。


 地図の隅に、見慣れない国境線がいくつかあった。前世の世界地図とは少し違う。どこかの国が統合されているのか、分裂しているのか——細かいところまでは、まだ読み取れなかった。


 ——まあ、追々わかるか。


 俺は天井を見た。

――――――――――――――――――

 おもちゃも増えてきた。


 父親が仕事で出かけるたびに何かを買ってくる。光るもの、音が出るもの、柔らかいもの——子供向けのおもちゃというのは近未来でも大差ないらしく、俺には懐かしい感じがした。


 その中に、ひとつ変わったものがあった。


 手のひらに収まるくらいの大きさで、球体に近い形をしている。素材はよくわからないが、滑らかで、ひんやりしている。色は淡い青白い光を帯びていた。


 見た目は——正直、地味だった。


 光るわけでも、音が出るわけでも、何かに変形するわけでもない。ただの球体だ。近未来の富裕層の子供に贈るにしては、随分シンプルだと思った。


 でも父親はそれを俺の前に差し出した。


 何か言った。言葉の意味はよくわからなかったが、「持ってみろ」というようなニュアンスだった。


 俺は小さな手を伸ばして、それを握った。


 ——回った。


 音もなく、なめらかに。手の中で、球体がゆっくりと回転し始めた。


 俺は少し驚いた。電池も、スイッチも、何もない。握っただけで回った。


 ——近未来のおもちゃか。


 センサーでも入っているのだろうか。握ったことを検知して回転する仕組みになっているのかもしれない。しかし見た目はどう見ても単純な球体で、精巧なギミックが入っている感じがしない。


 ——まあ、面白いな。


 悪くなかった。単純だが、手の中でなめらかに回り続けるのは、なんとなく心地よかった。俺はそのまま握り続けた。


 回転が、少しずつ速くなってきた気がした。


 あるいは、球体が少し温かくなってきた気もした。


 ——ん?


 俺は首を傾けようとした。


 そのとき、頭の中が、すうっと白くなった。


 眠いとは違う。痛いとも違う。ただ——力が、どこかへ流れていくような感覚があった。


 球体はまだ回っていた。


 俺の意識は、そこで途切れた。

――――――――――――――――――

 気づいたら、メイドが俺を抱き上げていた。


 球体は床に転がっていた。もう回っていなかった。


 父親が何か言っていた。驚いたような、でも少し納得したような声だった。


 俺には何が起きたのかわからなかった。


 握っていたら意識を失った。それだけだ。


 ——なんだったんだ、あれ。


 体に異常はない。どこかが痛いわけでも、熱があるわけでもない。ただ、ひどく眠かった。


 メイドの腕の中で、俺は素直に目を閉じた。


 考えるのは、起きてからでいい。


 球体のことは、しばらく忘れることにした。

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