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第三話 俺の名前とメイドと生まれるべきは金持ちという真理

俺の名前はエリックというらしい。


エリック。


フランス語っぽい響きだ。ということは——俺はフランス系の家に生まれたのか。転生先がフランス系の富裕層というのは、悪くない。というより、かなりいい。前世では日本の会社でこき使われていた身としては、ヨーロッパ系の上流階級というだけで人生の難易度が一段階下がった気がする。


——生まれるべきは金持ちだな。


これは真理だと思った。


チートも魔法も異世界スキルも何もない。あるのは前世の記憶だけ。そんな俺が唯一恵まれているとすれば、この家の経済力だけだ。ありがたく享受させてもらう。


――――――――――――――――――


そして——メイドがいた。


これには少し驚いた。


朝、母親ではない人物が部屋に入ってきた。きっちりとした制服を着た女性で、動きに無駄がなく、俺を抱き上げる手つきが実に手慣れていた。プロだ。間違いなくプロの所作だった。


——メイドだ。


本物のメイドを初めて見た。前世では漫画やアニメでしか見たことがなかった存在が、今は俺の世話をしている。近未来の富裕層というのはそういうものらしい。


俺は泣くのをやめて、メイドの顔をじっと見た。


メイドは少し驚いたようだった。赤ん坊にじっと見つめられるのは想定外だったのかもしれない。でもすぐに表情を戻して、慣れた手つきで俺の世話を続けた。


——できる人だ。


前世のビジネス感覚が、無意味に反応した。


――――――――――――――――――


しかし。


部屋をぼんやりと眺めながら、俺はひとつだけ思った。


——メイドロボがいたら完璧だったな。


近未来なのだから、ロボットのメイドがいてもいいはずだ。AIが発達した世界で、家事をこなすロボットがいないはずがない。しかしこの家に来るのは人間のメイドだった。悪くはない。むしろ十分すぎる。でも近未来感という意味では——メイドロボがいれば申し分なかった。


——贅沢を言いすぎか。


俺は天井を見た。


人間のメイドがいて、広い部屋があって、食事の心配もない。チートなしで転生した身としては、これ以上を望むのは罰が当たる。


それに——メイドロボがいたとして、俺に何ができる。今の俺にできることといえば、寝るか泣くか天井を見るかだ。メイドロボの良さを享受できる体になるまで、あと何年かかるかわからない。


腹が減ってきた。


——また泣く時間か。


俺は心の中でため息をついた。エリックという名前をもらったフランス系富裕層の赤ん坊は、今日も本能に従って盛大に泣いた。


メイドが慣れた手つきで抱き上げてくれた。


——まあ、悪くない人生だ。


今のところは。

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