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第十一話 お客様と美少女幼なじみ(未確定)の件

今日は父親に客が来ているらしかった。


 応接室らしい場所の方から、話し声が聞こえてきた。

エミリーがいつもより少しきびきびと動いていた。来客があるときの空気というのは、時代が変わっても変わらないらしい。


 しばらくして、父親が俺を連れてきた。

 客に見せるつもりらしい。

 ——なるほど。

 俺は状況を把握した。子供を見せるというのは、信頼関係の表れだ。前世でも取引先との食事に家族を連れてくる上役がいた。そういうやつだろう。


 客は一人だった。


 父親と同じくらいの年齢の男で、身なりがいい。立ち方に隙がない。父親も十分高貴そうな雰囲気を持っているが——この客の方が、なんとなく偉そうだった。オーラというか、格というか、そういうものが違う気がした。


 前世の営業経験が、無意味に反応した。

 ——これは媚びを売るべき相手だ。

 俺は即座に判断した。


 父親がこの人物に対してどういうスタンスで接しているかは、まだ言葉が完全にわからないから断言できない。でも態度を見ていれば察せる。父親はこの客に対して、いつもより少し丁寧だった。


 ——お父さんがお世話になっている人、ということにしておこう。

 俺は客の顔を見て、できる限り愛想よく笑った。

 そして言った。


「いつも、おせわに、なっております」


 沈黙があった。

 父親が固まった。

 客が——笑った。

 声を出して笑った。前世でいう「豪快に笑う」という感じの笑い方で、部屋の空気が一瞬で変わった。それから客は何か言った。父親も笑い始めた。

 ——よかった。

 成功した。


 媚びは万国共通で効く。時代が変わっても、権力者は自分に好意を示す者に対して悪い気はしないものらしい。赤ん坊にお世話になっておりますと言われて笑わない大人はいない。


 俺は密かに満足した。

 その後、父親と客の会話が続いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

俺はエミリーに抱かれながら、聞こえてくる言葉を拾い続けた。

 そして——聞き取れた。

 もうちょっと大きくなったら、お互いの子供を会わせよう。

 客がそう言っていた。父親が頷いていた。

 ——子供。

 俺は少し考えた。

 この客にも子供がいる。その子供と、俺を会わせるつもりらしい。つまり——幼なじみができる可能性がある。

 ——おいおいおい。

 俺は心の中で立ち上がった。

 サイボーグ美少女護衛メイドだけじゃなく、幼なじみまでいるのか。


しかもこの客の雰囲気からして、相手は高貴な家の子だ。高貴な家の子供が幼なじみになる。


 ——油断していて男性名詞か女性名詞か聞き逃したが、美少女幼なじみの可能性が高い。


 まだ未確定だ。男の子かもしれない。そもそも子供が何人いるかもわからない。年が離れてたり、全員男の可能性もある。

 でも——可能性はある。

 ——これがチートなのか。


 魔法の才能は平均だった。知識は三十五年前のものだから役に立たない。でも気づけば、美少女サイボーグ護衛メイドがいて、高貴な幼なじみ候補がいる。これはチートではないのか。転生補正というやつではないのか。


 ——美少女幼なじみ(未確定)のために、魔力を鍛えるか。


 動機が不純だという自覚はあった。


 でも動機は動機だ。前世でも「あの先輩に認められたい」という不純な動機で仕事を頑張って、結果を出したことがある。動機の純度と結果の質は関係ない。

 俺は密かにガッツポーズをした。

 エミリーの腕の中で、小さな拳を天井に向けて。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その日の夜。

 俺は球体を握った。

 美少女幼なじみ(未確定)のために、いつもより長く鍛えようと思った。


もし美少女だった場合、魔力が高い方が印象がいいに決まっている。会う前から差をつけておく。それが前世のエリートサラリーマンとしての流儀だ。

 一分。

 三分。

 五分。

 ——いけるな。

 最近は調子がよかった。長く持ちこたえられるようになってきた。もっといける気がした。

 七分。

 十分。

 ——まだいける。

 十五分。

 ——あ。

 俺の意識は、そこで途切れた。

 久しぶりだった。

 エミリーが抱き上げてくれた。

 気づいたのは翌朝だった。

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