第十話 メイドさんの秘密
翌日も、エミリーは来た。
そう、名前はエミリーというらしい。いつの間にか覚えていた。母親がメイドを呼ぶとき、必ずその名前を使っていた。エミリー。フランスっぽい名前だ。
エミリーはいつも通り、にこにこしながら俺の世話をしていた。毛布を直して、おもちゃを整えて、俺の顔を覗き込んで何か話しかけてくる。
俺はその腕を見た。昨日の一瞬が、まだ頭に残っていた。
——聞くか。
語彙はまだ少ない。でも最近は単語を組み合わせれば、なんとか意思疎通できるようになってきた。
俺はエミリーの腕を指さした。
「エミリー……ロボ?」
エミリーが少し目を丸くした。それから、穏やかに笑った。
「いいえ」
エミリーは首を振った。それから自分の腕を少し持ち上げて、さらりと言った。
「腕を機械にしているだけですよ。坊っちゃんを守れるように」
俺は固まった。
——腕を機械にしている。坊っちゃんを守れるように。
さらりと言った。本当にさらりと言った。何でもないことのように、にこにこしながら言った。
——嘘だろ。
俺は改めてエミリーを見た。穏やかな顔。きっちりした制服。いつも通りの笑顔。どこからどう見ても普通のメイドだ。でも腕が機械だ。
——サイボーグ美少女護衛メイド。
俺は頭の中でその言葉をゆっくり繰り返した。
近未来だと思っていた。魔法もある世界だと思っていた。でもサイボーグまでいるのか。魔法とサイボーグと、この世界はどこまで詰め込むつもりなのか。
——やはり転生といったらハーレムだよな。
そこ、普通はチートが第一とか言ってはいけない。チートがない転生者にとって、ハーレムは唯一残された浪漫だ。文句を言わせるな。
——このメイドさんはハーレム要員一号に違いない。
確信した。根拠はなかったが、確信した。
俺は小さな拳を握った。天井に向かって、盛大にガッツポーズをした。
エミリーが首を傾けた。
「どうかしましたか、坊っちゃん」
——何でもない。
俺は笑った。赤ん坊の笑顔で、でも中身は完全に転生者の笑顔で。
人生、悪くない。




