第四話 秘密『魔』道具 第一号
初めて作った私のダンジョン。この異世界で唯一の拠点。
「おぉ~」
広さ最大で作っただけあって、確かに大きかった。うちの学校の体育館と同じかそれ以上かもしれない。
だけど何も無い。ただ広いだけの石造りの空間が広がっているだけ。壁も床も天井もろくな装飾すらありゃしない。殺風景が過ぎる。
「後々、手を加えていくしかないか。しっかし――」
結局ダンジョンまで連れて来てしまった羊ども。かなり広い空間になったけど、それでも全部入り切るかといえば……何とも言えない。微妙なラインだ。
さらに拡張できない訳じゃないけど、いささか魔力が勿体ない。
ダンジョンで何かをするには魔力を消費する。さっきこのダンジョンを作ったときだって使ったし。
補充する手段はもちろんある。それこそ私が魔力を注いだっていい訳だし。私に魔力があればの話だけど。
まあつまり、ダンジョンの資源は無限じゃなくて有限だってこと。
それをさっき会ったばかりの羊のために消費するのは如何なものか、と。そういう訳だ。
そうこう考えてる間に羊どもは、勝手にダンジョンの奥へ入っていき多分くつろぎ始める。後から後からどんどん入って来て、あっという間に体育館ぐらい広かった空間は羊でぎゅうぎゅうに埋まった。
あれだけいたはずの羊の群れが、なんと全部ダンジョンの中に収まってしまった。
「ねぇ。それ狭くないの?」
微妙というか、明らかに体積以上に詰め込まれた気がするんだけど。
「めぇぇ~~」
「……分からん」
まああの毛ってかなり柔らかかったし押し込めばなんとか、なるのか? でも現状なんとかなってるしなあ。
……まあいいや。
それよかもうちょっとダンジョンの状態を確認しておきたい。
せめて外からこれ以上余計なものが入ってこないようにしないと。これ以上は本当にパンクする。
「<ダンジョンマスター>」
再び頭の中にあの表記が羅列される。
――――――――――――――――――――
権能:ダンジョンマスター
能力:
・ダンジョン生成(1/1)
・ダンジョン改築
・モンスター生成
・アイテム生成
保有魔力:
5,000
追加魔力:
1,000/1h
――――――――――――――――――――
ダンジョン生成のところが上限になってたり、保有魔力が半分に減ってたりするんだけど――
それ以上に新しく、気になる項目が表れてる。
『追加魔力』
まあ文字通り追加される魔力ってことなんだろう。隣にある『1h』はおそらく一時間ごとにってことでしょ。てことは今このダンジョンは、一時間ごとに千の魔力が追加されるということになる。
……どうして追加魔力がいきなり千もある?
頭の中にあるダンジョンの知識と今の状態を照らし合わせて考える。
「んー……もしかして」
色々な条件と照らし合わせた結果、一つの推測を立てた。
まずはそれを確かめてみる。
「君。悪いんだけど、ちょっと私について来てもらっていい?」
「めぇ~?」
私は適当に一頭の羊を選んで、一緒にダンジョンの外に出た。
外はついに日が落ちて辺りは真っ暗。昼間よりも肌寒い風が吹いている。でも羊のそばにいると、もこもこのお陰なのか不思議と温かい。風邪をひく訳にもいかないし、さっさと済ませよう。
羊がダンジョンの外に出たのを確かめてから、もう一度<ダンジョンマスター>の権能を使った。
――――――――――――――――――――
権能:ダンジョンマスター
能力:
・ダンジョン生成(1/1)
・ダンジョン改築
・モンスター生成
・アイテム生成
保有魔力:
5,000
追加魔力:
990/1h
――――――――――――――――――――
「やっぱり……」
すると、私の想像通り追加魔力の数字が減っていた。
ダンジョンには中に入っている生物から魔力を吸い取る機能がある。ただし健康に害が及ぶ程じゃなくて、身体から溢れる余剰分だけ。例えると、人間が吐き出す二酸化炭素を集めて吸収してるようなものだ。
そして今ダンジョンの中には大量の羊がいて、一頭外に出したらそれが減った。つまりあの追加魔力は、羊から放出される余剰分だということが分かる。
これであの数字にも納得がいく……いくか?
てことはあの羊、中に百頭もいるってことなんだけど?
私には魔力云々よりもそっちの方が驚きなんだ。本当にどんだけ集まってきたんだよ。たしかに途中から数えるの止めたけどさ。まさか三桁も集まるとは思わないじゃん。しかも目的が分からない怖さもあるし。
「めぇぇ~~」
「ああうん。寒いから戻ろっか」
制服の袖を引っ張られて、戻ろうと促してくる。ダンジョンが気に入ったのか?と思いつつ、その羊とダンジョンに戻った。
それから羊どもに囲まれて地面に胡坐を組んで座る。
さて……これ、なあなあにしておくべきじゃないよね?
確かにこっちとしては魔力が増えるから助かる。たったの五時間でダンジョン生成に使った分が回収できるんだ。一晩寝ればもう回復してる。不労収入万歳。
でも羊どもがここにいる理由が分からない以上、来たときと同じでいつ居なくなっても不思議じゃない。
この際だからしっかりと彼らの話を聞いて、出来るならぜひこのダンジョンに留まって欲しい。
となると、だ。
必要になるのは、羊のような動物とも意思疎通を図れるもの。
つまり――
「作るしかないか……ほんやくコンニャク」
食べれば人だろうが獣だろうが宇宙人だろうが。あらゆる言葉が通じるようになるドラ◯もんの秘密道具。映画だとかなり登場機会の多い、使い勝手のいい道具。それが、ほんやくコンニャクだ。
たしか動物にも使ったことがあったはず。であれば羊たちと意思疎通を図ることだって出来るだろう。
そして、私の権能<ダンジョンマスター>は条件さえ揃えば万能に近い力を発揮することが出来る。秘密道具作りには相性がいい。
本来の用途は違うんだけど、まあこれもダンジョンマスターの特権だ。
職権乱用? 何とでも言うといい。
私は…………秘密道具を作りたいんだっっっ!!
「必要なのは二つ。コンニャク。それと翻訳能力をコンニャクに与えることが出来る何か――」
まずコンニャクはいい。ダンジョンのアイテム生成能力を使えばどうとでもなる。
問題はもう一つの方。例えば翻訳能力を持つ木の実があったとしよう。それをアイテム生成で作りコンニャクに混ぜる。あとはそれを食べれば意思疎通、完了。ほんやくコンニャクの完成だ。
まあそんな都合のいい木の実、無いんだけど。
ではどうするか?
そのヒントはここに来る前、ケルビムが言った言葉にある。
――この世界には『魔法』が存在するのだ。
そしてそれを使えば秘密道具を再現できるとも、アイツは言っていた。
今回はそれを信じてやる。もし出来なかったら次会ったときにぶん殴ってやればいい。
アイテム生成が可能な物の中で、魔法に関連するアイテムで条件を絞る。
まだこの力を使い慣れてないからか、頭の奥の方が痛んだ。でもこんなところで諦める訳にはいかない。頭痛を極力無視するように努めて、検索を進めていく。
「……あった。これだ」
そして検索を続けて、目的のものを見つけた。
アイテム生成にかかる魔力は……千、か。
仕方ない。必要経費だ。
アイテム生成を使ってそれを作る。それから目を開けると、地面に古びた羊皮紙が置かれていた。丸められて中央を太い紐で締められている。
その正体は、『スキルスクロール』。
あの紐を解いてスクロールを開くと、そこに書かれた対応するスキルを習得することが出来るという超便利アイテム。
そしてあのスクロールは『付与魔術』を習得することができるもの。
付与魔術は文字通り、物に特殊な効果を付与する魔法のことだ。
これを使ってコンニャクに翻訳の効果を付与してやる。これが私の考えたほんやくコンニャクの作り方だ。
「まずはお試し、と」
早速、スクロールを開いて付与魔術のスキルを習得する。ちゃんとステータスを開いてそこに追加されてることは確認した。
それからもう一回アイテム生成でコンニャクを作る。あとお皿ね。さすがに地べたに置くのは無理。食べようと思わない。ちなみに魔力はほとんど消費しなかった。これなら沢山作っても大丈夫そう。
「翻訳の効果を、<付与>!」
そしていざ、付与魔術を使ってみたのだが……出来なかった。
何も手応えが無かった。何かが出来た感覚も、逆に失敗した感覚も無い。そもそも発動すらしなかったような感じだ。
「ちんからほいっ!」
……ダメか。
原因を考えてふと、さっきステータスを見たときのことを思い出す。
そこにはたしかに『付与魔術Lv1』と書かれていた。
ひょっとしてこれは、レベル不足が原因なんじゃなかろうか?
もしそうなら付与魔術のレベルを上げてみる必要がある。ゲーム的に考えるんだったら、今できる範囲の付与を何度も繰り返して地道に特訓していくしかないんだけど――
「ダンジョンマスターを舐めるなよ……!」
私にはダンジョンマスターというすごい便利な能力がある。これを使えば手っ取り早くスキルレベルを上げる方法が見つかるかもしれない。
例えばもう一度、同じスキルスクロールを使ってみるのはどうだろう?
既に習得したスキルが重複したら、レベルが上がったりするんじゃないか?
そうと決まれば、早速やってみる。
スキルスクロールを生成し、それを開く。それから再び自分のステータスを確認してみると『Lv2』と表記が変わった付与魔術のスキルがあった。
「よしっ!」
これでレベル上げに関しては問題無い。
あとはどこまで上げたらいいか、だ。
残った保有魔力は三千に足りないぐらい。つまる作れる付与魔術のスクロールは残り二本。さっきコンニャクとお皿作ったから、微妙に三本作れないんだよねえ。
一先ず、レベル二でもう一回付与を試してみる……失敗。
次にもう一つレベルを上げて再挑戦……失敗。
そして今できる最後、レベル四にして再々挑戦……失敗。
「ここまで来たら、強引にでもっっ!」
私は自分の魔力をダンジョンに捧げることにした。
正直、自分がどれだけの魔力を持っているのかは未知数。だけどコンニャクで消費した分ぐらいは補充できると信じたい。
ダンジョンの床に手をついて、後は<ダンジョンマスター>の力に任せる。
すると、掌が何かむずむずし始める。同時に身体の奥から何かが流れるような、減っていくような感覚を覚えた。それは熱のような何かだった。いや、これが魔力ってことなんだろう。
正直、あまり気持ちのいいものじゃない……
<ダンジョンマスター>で保有魔力を確認しつつ、じわじわと増えていくそれが千を超えたところで魔力を捧げるのを止めた。
「ふぅ……よし! 次の一本~!」
これが最後のチャンス。次に可能になるまでは一時間かかる。さすがにそんなに待ってられない。それにこれにばっかり魔力は使ってられないんだから。いい加減、ここらで決めておきたい。
そう思いながら付与魔術をレベル五にして再々々挑戦、再々々々挑戦?
果たしてその結果は――
「お?」
確かにこれまでに無かった手応えを感じた。
さっきと同じで身体から魔力が抜ける感覚があり、それがコンニャクに注がれていくのが分かる。それに応じるようにコンニャクは輝きだし、何かが変わっていく。
少しして光が収まった。
やばい、手が震えてきた。その振動が伝わって、持ったコンニャクがぷるぷる震えてる。
「……よし、食べるぞぉ」
さすがに食べられない物に変わってるなんてことはないはず。
恐る恐る、ゆっくりとコンニャクを齧る。
歯が入っていく感触も、そして咀嚼したときの味もちゃんとコンニャクのものだった。
――ゴクンッ
飲み込んだ。
そのまま私は、近くにいた羊に話しかける。
「ね、ねえ。ちょっといい?」
「めぇ~?」
羊の口から出たのは、さっきまでと変わらない鳴き声。
だけど……鳴き声に混じって、というより副音声みたいに聞こえた。『なにぃ~?』という間延びした声が。
ははっ……ほんやくコンニャク、完成だ。




