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猫型ロボット好きな女子高生による異世界救済。まずは食から改善しよう。  作者: ミジンコ


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第三話 人懐っこい生物?

 眠りから覚めるように目を開く。

 ケルビムの上司らしき存在に会ってから記憶が途切れてるけど、もう異世界に来たってことでいいんだろうか?

 

 視界一杯に広がるのは、雲一つない青空。

 それと、勿論一つだけしかない太陽。


 ぽかぽかとした心地よい陽気で、さーっと温かくも寒くもないちょうどいい風が吹き抜ける。

 空気を深く吸い込むと草と土の自然の匂いが鼻をくすぐった。

 野原にピクニックにでも来たようで、すごいリラックスした気分になる。


「はぁ…………と、やばい。眠くなってきた」


 あまりにも心地よくて瞼が重くなってくる。

 さすがにこのまま寝るのは不味いことぐらい分かるから、眠気を振り切って上体を起こした。


「ここ、どこ?」


 視界一杯に広がるのは、どこまでだだっ広い草原。


 おかしい。私ってこの異世界を救うために来たはず。

 なのにどうして街とかじゃなくて、こんな何も無い草原からのスタートなんだ? そんなはずなくない?


 もしかしてあのとき文句を言ったら、上司からの嫌がらせか?


 そんなことを疑いつつ、更に辺りを見回してみる。


 分かったのは四方八方ずっと草原が広がってるだけだということ。

 なんか草原のところどころにでっかいタンポポの綿毛みたいなのがあるだけで、それ以外には何にもない。

 これってある意味、遭難なのでは?

 ここが何処かも分からないし、人がいる方角だって分からない。


「……さて」


 まずは何から優先すべきだろう……


 取り合えず歩いてみようか?

 移動してみれば人の気配が見えてくるかもしれない。だとしてどの方角から攻めるかが問題になる。それにこの状況で無駄な体力を消耗していいものか。


 それよりも、食料と寝床の確保の方が先か。


 川や池すら見当たらないし、食料なんて当然ない。


 このままだと餓死する可能性すらある。


「んー……あっ。そうじゃん。こんなときこそアレの出番でしょ」


 ひとまず「ステータス」と声に出せば、向こうで見たのと同じ私のステータスが頭の中に浮かんできた。


――――――――――――――――――――

名前:清水有紗

性別:女

種族:人間

スキル:

権能:ダンジョンマスター

――――――――――――――――――――


 記憶にある通りの自分のステータス。そしてケルビムから貰った<ダンジョンマスター>の権能があるのをしめしめと確かめる。


 大まかな使い方は、大量の情報の一部として頭にぶち込まれた。だから使い方自体は問題ないんだけど……これ。簡単にいえば自分の陣地を作るスキルなんだよねぇ。


 つまり今ここで<ダンジョンマスター>を使えば、私はここに陣地を構えることになる。こんな何もない草原に、だ。


 まあ最悪はそれで仕方ないとしても、もう少し考えてからでもいいでしょ。まだ日も高いし、夜までは時間もありそうだしね。


「ん?」


 ステータスの確認を終え目を開ける。

 そこでふと、視界に映る景色に違和感を感じた。


 何だ?と思って首を傾げながらもう一度よく見てみると……


「あの綿毛、増えてる?」


 この草原にあった唯一の草以外のもの。あのデッカイ綿毛状態のタンポポの数が増えている気がした。

 いや、間違いなく増えてる。

 だってあそこ。さっきは一つしかなかったはずなのに、今は二個並んでるんだもん。え、あれどっから湧いて来た?


 気になって観察を続けていると、遠くにあった正体不明の綿毛がこっちに近づいてくるのが分かった。


「っ!?」


 か、風で動いてるんだよ、ね?


 まさかあれが生き物だなんて言わないでしょ。


 ……でも話が本当ならここは異世界。動く巨大綿毛があっても不思議じゃない。もしすると食肉植物とか危険な生き物の可能性だってあるんだ。


 そう思って念の為に距離を取ろうと立ち上がる。


「っっっ!?」


 背後を振り返って……今度こそ顎が落ちるかもってぐらい驚いた。


 そこには地平線が見えないぐらいの数の綿毛がずらっと。まるで私の進路を塞ぐみたいに並んでいた。


 最初、あんなに数いなかったよね?

 うん。それは間違いない。


 慌てて左右に視線を向けると、そっちも同じだった。

 綿毛共が私を閉じ込めるように並んでいる。


 ……私はいつの間にか、綿毛の集団の四方を取り囲まれていた。


「ひゅっ」


 腹の底から湧き上がってくる恐怖に、思わず喉から変な声が出る。

 

 ヤバい。


 このままじゃあの綿毛共に押しつぶされるか、最悪食べられる。でも四方を囲まれた現状、どこにも逃げ道が無い。

 一か八か<ダンジョンマスター>を使うか? 

 でもあれ細々とした設定がいるから間に合うかどうか。というかここにダンジョンを作ったところで、あれから逃げられるのかも微妙なところ。


 ……いや。


 このまま何もしないで食べられるぐらいなら、やるべきだ。

 来て早々にゲームオーバーなんてやってらんないっ!


「<ダンジョン――」


 勢いに任せて権能を使おうとした時だった。


 綿毛の中からひょっこりと、何かの顔が現れた。


「めえぇぇ~~」


 続いて聞こえてきたのは気の抜けるような鳴き声。

 完全に想定外の出来事に、思わず権能を使おうとした声が止まった。代わりに出てきたのは、出てきた動物の顔に言及する言葉だった。


「……ひ、羊?」


 そう、それは羊の顔だった。

 ふっくらとした丸みを帯びた形に、頭の横に生えたくるんと巻かれた二本の角。そしてあのビブラートの利いた鳴き声。どれをとっても羊にしか見えなかった。


 もしかしてあの綿毛……全部、羊?


 そう思った瞬間、それ以外の綿毛からもぴょこぴょこっと顔が飛び出してきた。そして一斉に「めえぇぇ~~」の大合唱が始まる。


 やっぱり羊じゃん。


 というか羊って確か草食動物だったはず。

 てことは私が食べられる心配はない、てことでいいのか?


 ちょっと怖いけど、このままじゃ埒が明かない。そう思って取り囲んだまま近づいてこない羊に一歩、こっちから近寄ってみた。


 一歩、もう一歩。ゆっくりと。


 それでも羊は逃げない。

 私を脅威と感じていないのか、それとも人に慣れてるのか。というか人に慣れてるんだとしたら、ここって牧場の可能性もあるんだろうか? 

 だとしたらあの羊の来た方向を辿れば人間のいるところに――ダメだ。分かんねえや。


 そんな風に恐怖心を紛らわしながら近づいて行き、ついに手が届く距離までやってきた。


 そして恐る恐る、羊の顔に触れてみる。


「めぇ~」

「温かい……」


 いや生き物なんだから当然なんだけど。


 すると今度は羊の方から私の手に顔を擦りつけてきた。

 それで段々と私の警戒心も薄れてきて今度は羊の、綿毛のような毛を触ってみる。


 ――それは、極上のふかふか触感だった。


 今すぐにでも、そこに全身埋もれてしまいたいぐらいのふかふか感。

 地球で使っていた布団なんて比べ物にならないほど、触れているだけで眠気を誘ってくる。やばい。これは色んな意味でヤバい……


「――はっ!? 君、恐ろしい羊だな」

「めぇぇ~?」

「何でもない。言っても分かんないよね」


 そんな風に目の前の羊を撫でてるうちに他の羊も集まってきて。いつの間にか全身をもふもふで包まれていた。


「ちょ、ちょっと待って。君ら、そんなに押さえれても一気には撫でられないから! 順番に並んでくれっ!」


 ああ、こんなとき食べると相手の言葉が分かるようになるコンニャクでもあれば便利なのに。

 魔法がある世界ならそれぐらい作れるかもしれない。だけど今は無い物ねだりをしてもしょうがない。兎に角、群がってこようとする羊たちを押しのけて中心から逃れることに成功する。


「はぁ、はぁ、圧殺されるところだった……ところで君たち。随分と人に慣れてるよね。もしかしてどこかで飼われてる羊だったりする?」


 この人への慣れ具合。

 野生動物としてはあり得ないぐらいの懐き度。

 

 とはいえそれは返事を期待しての質問じゃない。羊たちの全身を隈なく観察して、何か人の痕跡が無いかを探してみる。

 その間も羊はされるがままだったら調べやすかった。


 その結果、首輪どころか鈴の一つすら見つからなかった。


 多分、人に変われてる羊では無さそう。野生動物なんじゃないかな?


 てことは人里への手掛かりにはなりそうにない、か。


「結局、振りだしに逆戻りかあ。いやほんと、どうするかな? せめて自分が落とされた場所ぐらいは知っておきたかったよね。それぐらいの情報くれてもいいと思うんだけど」

「めぇぇ」

「だよね。君もそう思うよね? というかいつの間にか他の人たちもいないしさ。こっから一人でどうしろって話でしょ。幸先不安過ぎて草も生えないって話でさ――」


 何かも言葉が通じなくてもいいやって気分で、羊を相手に愚痴をこぼす。羊たちはまるで相槌でも打つみたいに時折めえめえ鳴いてくれた。


 そんな感じで羊に一方的な話を続けること暫く。

 吐き出したら少しスッキリした。


 そろそろ動き始めないと。


「じゃあ羊ども。私はそろそろ出発するから。話聞いてくれてありがとね」


 せめて寝床と水だけでも探さなくちゃ。

 最悪、食料に関しては数日なら水だけで我慢できる。いざとなればそこらの野草もあるけど……お腹は壊したくない。

 だってこっちの世界にまともな医療を受けられる場所があるか分からないし。体調管理は何よりも優先すべきだと思われる。


 そんな感じで出発した。


 ……したんだけど。


「ねぇ。なんでついて来るのさ?」

「「「「「めぇぇ~~」」」」」


 どうしてか知らないけど、羊どもがついてくる。


「いや、『めえ』じゃなくて。私について来たってしょうがないでしょ。元いた場所に帰りなって。ああでもここが元いた場所なのか。もしかしてこっちに帰る場所があるとか? でもお前らそこら辺にいた野生だよね」


 さっきの様子からして私を食べるためとかではないと思うんだけど……だったら何のために? さすがに野生動物が考えてることは分からない。


「まあ好きにすればいいよ」


 無視してればそのうち飽きるでしょ。


 そう思って探索を再開した。


 何も無い草原を、ただあても無く歩き続ける。

 歩いてみて、目的地の分からない探索がこんなに大変だと初めて知った。というか普通にしんどい。辛い。


 歩けど歩けど、どこまでも続く草原が広がっている。


 見つかるものはといえば、あの綿毛のような羊だけ。

 それが私について来る群れに加わって更に大きい行列ができる。気が付いたらまるで時代劇で見た大名行列みたいになってた。いつまでついて来るのか分からないけど、もう知らん。


 ていうか動物がいるんだから水場ぐらいあるでしょ!?

 なんで何も無いんだよ! じゃあこの羊どもはどうやって食料とか水を確保してるんだ! 共食いでもしてるってのか? ああん!?


 それからはもう意地になって探し歩いて……ついに日が暮れてしまった。何も見つからないまま。


「マジかぁ……」


 夕方になってあと一時間もしないうちに日が落ちるだろう。


 そこに至ってもこれといった発見は無かった。 

 

「見つかったと言えば――」

「「「「「めえぇぇ~~」」」」」

「お前ら何匹いるんだよ。というか怖い。もはや怖いっ」


 振り返るとそこには、一面を埋め尽くすもふもふの群れがあった。


 後半はもう数えてなかったけど、多分五十匹ぐらいはいるんじゃない? いつの間にかさらっと増えてるからそれも正確じゃないかもだけど。


 いや、今は羊はいいんだ。


 それより今晩どうするかを考えないと……といっても、もう結論は出てるんだけどさ。この状況で私に切れる手札なんて一つしかないんだもん。


「<ダンジョンマスター>」


 その一言と共に、頭の中にステータスと同じような表記が広がった。


――――――――――――――――――――

権能:ダンジョンマスター

能力:

・ダンジョン生成(0/1)

・ダンジョン改築

・モンスター生成

・アイテム生成


保有魔力:

10,000

――――――――――――――――――――


 その一覧から『ダンジョン生成』を選ぶように念じる。

 すると「現在、ダンジョン生成制限は一つです。この場所にダンジョンを生成しますか?」と注意の言葉が頭に響いた。

 それに続けて色々な初期設定みたいなものが出てくる。形やら広さやら内装やら。


 ふむ……広さだけ最大にして、あとはデフォルトでいいや。


 なんとこのダンジョン生成。

 どんな形にしようが必要になる魔力は一緒なのである。正直、内装とかはすぐに思いつかないから、取り合えず広さだけは確保しておこうって寸法だ。広くて損は無いでしょ、多分。


 設定を済ませてダンジョン生成にオーケーの返事をする。場所はてきとうに、私の目の前に作るようにイメージした。


 すると次の瞬間、地響きと共に軽い地震のような振動が足元から伝わる。


 それが収まってからゆっくりと目を開けると、目の前に見事な洞窟が完成していた。

 入口は大体縦に二~三m、横に四~五mぐらいかな。

 そこの地面が盛り上がってぽっかりと穴が空いたような地形になってる。


「これがダンジョンか。まさか地形から変えるなんて……ほんとにチートな能力なんだなぁ」


 これでこの異世界における私の陣地が出来上がった訳だ。

 取り合ず今夜はこの中でぬくぬくと休むとしよう。


「…………君らも、来る?」

「「「「「めぇぇ」」」」」


 そう振り返って聞いてみると、羊どもからは多分肯定っぽい返事が返って来た。


 そうして私は沢山の羊を伴って、私のダンジョンの中へ足を踏み入れた。

いかがでしたでしょうか?

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