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ONE MORE TIME  作者: 月丘 翠
高校生編
9/18

変わる過去と変えたい未来

ちりん・・・


風鈴の音が響く。

暑くてぐったりしてくる。


修学旅行で少し仲良くなったものの、それ以上の進展はなく、変わらぬクラスメイトとしての関係が続いている。


(上手くいかないものだな)


でも仲良くなりすぎて未来が大きく変わっても困る。

変えたいのは、大吾と付き合ってからの未来だ。


すずは畳にごろんと横になると、窓から見える雲一つない空を見上げた。


「すず、あんたもう高3でしょう。勉強しなさい」


「・・・はーい」


37になっても親に勉強しろと言われたらやる気はなくなるものだ、すずはそのまま横になったまま欠伸をした。

なんとなく視線を感じて、足の方に目を向けると、今にも噴火しそうな母がこちらを睨んでいる。

これはまずいと起き上がると、とりあえず2階の自室へ向かう。


自室もまた暑い。

窓をとりあえず開けるが、今日は風もないようだ。

毎年記録的な猛暑というから昔は涼しかったのかと思ったが、大して変わりはしない。

とはいえ、母の言う通り勉強しないとまずい。

何しろ大吾と同じ大学へ行かなければやり直しようもない。

勉強机に向かうが、こう暑いと集中できるはずがない。

自分の部屋にはクーラーがない。

妹の部屋にはあるのが、恨めしい。

妹は子供の頃、身体が弱かった。

だから空気清浄機も兼ね備えた非常に高価なエアコンをつけてもらっているのだ。

今は私と変わらないくらい健康優良児のくせに。

そんなこと言っても今の暑さがどうなるわけでもない。

すずは勉強道具をお気に入りのリュックに詰め込むと、図書館に向かうことにした。

図書館ならクーラーも聞いているし、周りの目もあるから集中して取り組めそうだ。

溶けるような思いで家を飛び出し、図書館へ向かった。


すっぴんで家を出たが、日焼け止めくらい塗ればよかった。

この積み重ねが今のしみになっていると思うと、未来の自分に申し訳ない気がした。

図書館に着くと、涼しい風が頬を通り抜けていく。

控えめに言って最高だ。

夏休みに入って、学校が開いてないから自習している人も多い。

図書館をぐるりと回って、どうにか自習できそうなスペースを見つけた。

少し数学の問題に取り組んで、集中し始めたころササっと人がどいていくような音が聞こえた。

顔を上げると、大吾がドカっと近くの机にカバンを置いているのが見えた。

周りが引いたような顔をしている。

やばい奴がきたと思っているのだろう。

高校の制服を着ているものの、茶髪で目つきはかなり悪くいかにもヤンキーという感じだ。


「何してるの?」

思い切って話かけると、びっくりしたような顔をしたが、すぐに「別に」といってこっちを見ずに勉強道具を広げ始める。


「ふーん。勉強?」

「そうだよ、悪いかよ」

「悪くないよ。むしろいいことじゃない」

「だったら、ほっといてくれ」

「わかったよ。私あっちの席に座ってるから何か困ったら声かけてよ」

私はそれだけいうと、自分の席へと戻った。


私は知っていた、確実に大吾が自分に話しかけてくるということを。

しばらく経つと、すずの肩をつんつんと何者かがつついた。

「・・・どうしたの?」

振り返ると、少し困った顔をした大吾が立っている。


「勉強って・・・どうしたらいいんだよ」


ぽんぽんと隣の席を叩くと、大吾は珍しく素直に隣に座った。


「大学、行く気になったの?」

「・・・まぁな」

「そっか。じゃあ、まずは英語からやろうかな」

私は腕まくりをすると、単語帳を取り出した。

「まずは1200語覚えよっか」

少し青ざめた顔の大吾ににんまりとした笑顔を向けた。


「すごいよ、300語は覚えたし」

真っ青だった空はオレンジ色に染まっている。

「覚えるのだけは得意だからよ」

「そうだったね」

「だった?」

「いやいや、こっちの話。ね、どうして大学に行こうと思ったの?」

「親に言われたんだよ、大学行ってほしいって」

「それだけ?」

大吾が驚いた顔でこちらを見ている。

目を逸らさずにニコッと笑うと、大吾はあきらめたようにため息をついた。


「・・・設計士になりたいんだよ」


小さな声で大吾がつぶやく。


「え?」

わざと聞き返すと少し大きな声で「設計士になりたいんだよ」と言った。


その声にびっくりしたように隣で流れる川から魚が飛び跳ねた。


「びっくりするじゃん」

「お前が聞き返すからだろ」

「設計士になりたいんだね」

「じいちゃんが設計士だったんだよ」


歩いた先に橋が架かっている。

海に向かって広がっていく川幅をつなぐ大きな橋が夕日に染まって綺麗だ。


「あの橋、じいちゃんが設計したらしいんだよ」

「へぇ、すごいね」

「・・・俺も橋作ってみたいと思って、親に行ったら大学行かなきゃ無理だって言われて」

「それはそうだろうね」

「だから・・・大学に行く」

「そっか」


なんだか大吾が眩しくて川の方を見ると、二人の並んだ影が歩いている。

昔聞いた話と全く同じで、大吾は大吾なんだけど、昔より心臓がうるさい。


「夏休みの間、私が勉強見てあげるよ」

「いいのか?」

「いいよ。教えるのもいい勉強になるしさ。その代わり、立派な橋を作ってよね」

「なんだよ、立派な橋って」

「そうだなー。世界をつなぐような橋?」

「それは無理だろ」

「無理じゃないよ。大吾ならできる」

大吾はため息をつきながら「善処します」と言って少し笑った。


(大吾、ちゃんと大吾は叶えることができるよ。世界をつなぐような橋を作る)


昔見た新聞記事が頭をかすめる。

世界の橋を作る有名設計士、川嶋大吾と新聞記事に載っている。

大吾と別れて5年が経っていた。

写真の後ろには優しく微笑む可愛らしい女性が写り込んでいた。


また川の魚が跳ねた。

「・・・大吾!私応援してるから!」

「な、なんだよ、突然大声出して」

「いや、つい気持ちが声に出ちゃった」

「恥ずかしいからやめろ」

「ごめん、ごめん」

大吾が少し前を歩いている。

手を伸ばせば届く距離に大吾がいる。

少し手を伸ばしてみる。


でも―


「早く帰ろ」

私は走って大吾を追い抜いた。

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