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ONE MORE TIME  作者: 月丘 翠
高校生編
8/18

現実と諦めきれない想い


なんだか眠れない。


修学旅行先のホテルのベッドが悪いわけじゃない。

色々な考えが浮かんで落ち着かないのだ。

今はどれだけ大吾と仲良くなっても、いつか32歳の現実に戻る日が来る。

その時は今よりもっと孤独を感じてしまうかもしれない。

幸せな思い出は時に残酷だ。

そんな考えが目を閉じても浮かんでは消えて、眠りを妨げる。

しばらく同室の女の子達もこそこそ話していたが、今は寝息が聞こえている。

かなり遅い時間なのかもしれない。

携帯を開いてみると、3時10分と表示されている。

ふと写真フォルダが目に入って、押してみる。

不服そうな大吾の顔が表示される。


(大吾だけど、・・・大吾じゃないんだよね)


○⚫︎○


「すず」


ハッと目を覚ますと、大吾が心配した顔でこちらを見ている。

「ごめん、寝ちゃってた」

大学の課題を一緒にやろうとファミレスに来たのに、気づいたらうとうとしてしまっていたようだ。

「さっさと終わらせよう」

大吾が珍しくメガネをかけている。

いつもと違う姿にほんの少し胸がドキッとしてくる。

「珍しいね、メガネなんて」

顔が赤くなっているのを感じながら、誤魔化すように声をかけた。

大吾は「最近目が悪くなってきたからな」と言ってまた黙ってパソコンを打っている。

「仕事出来る男っぽいよ」

「ぽいはいらねー」

「飲み物とってくる。大吾はいる?」

「じゃあコーヒー頼む」

二つのカップを持ってドリンクバーへ向かう。

湯気がたち、音を立ててコーヒーが作られていく。

席の方に振り返って大吾を見ると、イケメンなのだなと気づいた。

相変わらず優しそうな見た目ではないが、高校の時のようなトゲトゲしさはない。身長も高くなって、切長の目もセクシーと言えなくもないかもしれない。

そんなことを考えてぼんやりしてると、後ろに並んでる人と目が合った。

かなり迷惑そうな顔をしている。コーヒーはずっと前に出来上がっていたようだ。

コーヒーを手に取ると、後ろの人に頭を下げて、席に戻った。


「サンキュー」

コーヒーに口をつけながらも、こちらを見ようともしない。

課題のことで頭いっぱいという感じだ。

席の隣の大きなガラスに映る自分は、お団子ヘアーに黒の大きめパーカーにパンツスタイルで子供っぽい。

思わずため息が出る。

「どうした?何かわからないことでもあるのか?」

「ううん」

「じゃあなんだよ?」

「いや、別に何もない」

「…いいから言えよ」

「いや、なんか大吾はすっかり大人になってかっこよくなったなって思ってさ、それに比べて私は…」

パソコンをパタっと閉じて、メガネを外してじっとこちらを見てくる。

「な、何?」

突然黙って見つめられるとさすがに緊張してしまう。


「…すずはすずのままでいい」


「いや、そうは言ってもさ」

「困るんだよ」

大吾は恥ずかしさを隠すように下を向いて、小さく言った。

「困る?」


「すずがこれ以上、可愛くなったら俺が困るんだよ」


「え?」


「……すずの良さは俺だけが知ってればいい」

大吾は顔を少し赤くしてコーヒーを無理矢理一気に飲み、「もう一杯入れてくる」とドリンクバーにそそくさと向かって行った。


その後、帰り道に初めて手を繋いだ。

手に触れた時は心臓が掴まれたかと思うほど、胸がドキッとした。

いつも弾む会話がなんだかことがうまく出なくて、静かな夜を二人で歩いた。


○⚫︎○


「大吾…」


自分の声で目が覚めた。

辺りを見回すと、ホテルのようだ。

まだ2012年で過ごしているとわかり、不思議とホッとした。


(それにしても懐かしい夢見たな)


大吾から付き合おうとか告白されることはその後もなかったが、なんとなくこの日が付き合った記念日と思っていて、お祝いしたりしていた。

胸がチクりと少し痛い。

携帯を見て、どうしてこんな夢を見たか理解した。


(今日が記念日か)


あれからもう12年ほど経っている。

それでもこんな鮮明に夢で見ることが出来るなんて、別れて10年近く経つのにどれだけ未練がましいのだろう。

バカだと自分でもそう思う。


それでもやっぱり今も大吾が好きだ。


今の大吾は付き合っていた時の大吾とは違うけれど、それでも大吾と一緒に過ごしたい。

やり直したい、たとえこれが現実じゃなくて、夢の中だとしても。


修学旅行最終日は、京都駅を少しうろうろして、お土産を買って帰るだけだ。

これで地獄のようなグループ行動も終わりだ。

大人なので高校生の小娘の悪口や態度などに傷つくことはないが、悪意を向けられるのはやはりしんどい。

予想通り自由行動になった瞬間に、私と大吾を置いて、グループのやつらはサッとどこかへ行った。

京都駅は混み合っていて、たくさんの観光客で溢れている。

これからどうしようかと考えている内に大吾もいなくなった。


(散々な修学旅行だな)


私はため息をつくと、気持ちを切り替えてお土産を買いに駅のデパートなどに入ることにした。


「大吾、バレたら停学だよ?」

大吾が喫煙所で制服姿のままタバコを吸っている。

たまたま喫煙所の前を通ったら見たことある顔の男がいたのだ。

「…すずが黙ってたら大丈夫だろ?」

すずと自然に言われて、昔を思い出して動揺してしまう。

「黙ってるかわからないよ」

「その時は見間違いだって主張するよ。疑わしきは罰せずだ」

そう言いながら、タバコを消して、鞄から消臭剤を取り出して体にふりかけはじめる。


「……これあげるよ」


すずはぶっきらぼうに買い物袋を差し出した。

大吾は「なんだよ」と言いながら受け取って袋を開いた。

「これはキーホルダー?」

新撰組の服を着た柴犬のぬいぐるみがついたキーホルダーだ。

現代だと恥ずかしいかもしれないが、この時代は大きめのぬいぐるみついたキーホルダーをつけるのが流行っていた。

「いや、俺にはかわいすぎだろ」

昔の記憶を頼りに、小物入れのお返しを探したのだが、可愛すぎたか。

だとしても自分がつけるのはもっと抵抗がある。

何しろ中身は32歳なのだ。

受け取るのをためらっている大吾に「いいから」といって強引に渡した。

32で男子高校生が欲しいものを考えるのはやはり難しい。


(無理やり渡して悪かったかな)


その後すぐに集合時間になって、新幹線に乗り込んだ。

新幹線では通路挟んだ向こうの窓際の席に大吾が座っていた。

相変わらず、大吾は耳にイヤホンをつけたまま寝ている。


新幹線を降りて、バスで高校まで戻った。

バスの中でも大吾は誰とも話さず、ずっと寝ていた。

バスを降りると校庭へ集合させられて、「家に着くまでが修学旅行です」という校長の定番のワードの挨拶を聞いて、解散となった。

大吾との関係を進展させられなかったなと落ち込みつつ、恵美のところへ行こうとした時目の前を大吾が横切った。


鞄に新選組の服を着た柴犬が揺れる。


「あ‥…」

思わず声がでるが、イヤホンで聞こえないのか、大吾は振り向くことなく帰って行った。


「すず!帰ろ・・・ってその顔、何かいいことでもあったの?」

「・・・修学旅行最高だったから」

「そっか。それは良かった。でも帰るまでが修学旅行だから、気を付けて帰ろうね」

校長の声マネをする恵美にケラケラ笑いながら、駅に向かって歩き始めた。

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