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ONE MORE TIME  作者: 月丘 翠
高校生編
7/20

思い出の彼

うっすらと目を開ける。

朝早くから同室の子の声は聞こえてくる。

修学旅行で興奮して早く起きてしまったのだろう。

若くて元気で何よりだな、と思いながら、眠い目をこすりながら、ベッドから起き上がった。

「おはよう」と声をかけると、昨日はぐっすり寝ていたから起こさなくてごめんと謝られた。

表情を見る限りは悪いとは思っていなさそうだ。

明らかにニヤニヤしていて、こちらを蔑んだ目で見ている。

何が理由かわからないが、グループから外すことに決めたようだ。


全くバカバカしい。


高校生の頃の私なら耐えられなかっただろうが、今の私には子供だなとしかしか思えない。

こいつらとは高校卒業後に関わることはない。

全く自分の人生に影響がないとわかっている。

ふん、と鼻を鳴らすと、さっさと着替えて、朝食会場へ向かった。

朝食会場について一斉に食事が始まっても、大吾が来ない。


「グループの責任で川嶋を連れてくるように」


担任にそう言われると、一斉にこちらを見てくる。

仲いいのだからお前が呼びに行けということだろう。


「・・・行ってくる」


仕方なく、大吾の部屋へ向かい、チャイムを押す。

寝ているのかもしれない。

チャイムをひたすら連打していると、ドアがガチャっと開き「うるせぇ!」と大吾が出てきた。


「朝食の時間ですけど」

「・・・俺は別にいい」


そう言って扉を閉めようとするのを慌てて止める。


「川嶋くんが来ないとグループの責任になるのよ」

「は?・・・ったく、めんどくせぇな」

一度扉が閉められ、大吾が少しだけ髪を整えて出てきた。


「ふぁあああ」

大吾を連れて朝食会場に向かう。

「これ、ありがとうね」

ポケットから小物入れを取り出す。

大吾はちらっとみて「しらねー」と言って目をそらした。

そういえば、大吾は目を合わせて嘘をついたり、誤魔化したりが出来ないタイプだった。

大吾のそんな嘘をつけないところも変わらない。


「大事にするよ」

「・・・」

大吾は何も言わずにスタスタ前を歩いていく。

そんな後ろ姿を見ながら思わず、笑ってしまった。


朝食を食べ終え、着替えてバスに乗り込む。

外を眺めると、雲一つない晴天だ。

今日は嵐山へ向かう。

嵐山といえば、やはり渡月橋だろう。渡月橋は桂川にかかる大きな橋だ。

昨日までの雨で川が濁っているのが残念だが、それでも青空に緑の山々が映えて美しい。


橋の欄干に手を添えて、すぅっと息を吸い込む。

爽やかな風が胸の中を通り抜ける。


「何してんだよ?」

「気持ちいいなと思って」

「そんなことしている間に、班の奴らどこか行っちまったぞ」


辺りを見回すと、他のグループはちらほら見えるが、自分のグループの子たちがいない。


(わざとだな)


これだから子供は困る。


「ほんとだ」

「・・・どうすんだよ?」

「そうねぇ」

旅のしおりを開き、地図を眺める。


「ついてきて」

大吾にそう言うと、すずは歩き始めた、


「・・・すげぇ」


小道の左右には立派な竹林が続いている。

「ここは竹林の小径っていうんだよ。ドラマとか映画でもよく使われてるんだよね」

静かな竹林をのんびり歩くと、気持ちがいい。

自由時間の計画を立てておいて正解だ。

「ついでだし、野宮神社いこう」

「野宮神社?」


野宮神社は、縁結び・恋愛成就のご利益が有名な神社だ。また源氏物語の「賢木の巻」にも登場するほど歴史ある神社でもある。

手を合わせて祈ることは一つだけだ。


“大吾とずっと仲良く過ごせますように”


ちらりと横をみると、大吾も手を合わせている。

「俺は願い事なんてない」と言ってた割にはしっかり長めにお願いをしている。

そういうところがかわいいんだよな、と笑ってしまう。

「なんだよ?」笑ったことに気づかれたようだ。

「別になんもない。ねぇ、それよりおみくじやろう」

「俺、そういうの信じてねぇから」

「まぁいいじゃない。こういうのは楽しむもんなの」

強引に連れて行くと、二人でくじを引く。

「せーの」でくじをバッと開く。

「やった!大吉だ!川嶋くんは?」

「・・・小吉」悔しそうにそういうとそっぽを向いている。


「大吾っぽい」


そう言って笑うと、「くじにぽいとかないだろ」と言いながら顔を少し赤らめて口をとがらせている。


「ってか、下の名前で呼ぶのかよ」

付き合ってから下の名前で呼んでいたので、川嶋くんと呼ぶようにしていたのだが、つい出てしまったようだ。


「・・・嫌?下の名前で呼ばれるの」

「・・・別になんも」

「じゃあ私のことも下の名前で呼ぶ?」

「え?な、何言ってるんだよ」

「すず」

そう言ってまっすぐ大吾の目を見つめる。

「すず、だよ」

「すず・・・」

そう言って顔を真っ赤にさせている。

「よく言えました」

そう言ってからかうと、「バカにするな!」と眉間に皺を寄せてそっぽを向いているが、長年の経験から決して本気で怒っていないのがわかる。


しばらく竹林を歩くと、天龍寺までやってきた。

足利尊氏が建立されたとされる世界遺産にもなっている寺だ。

美しい庭園を横目に歩く。


「ねぇ、写真撮って?」

そういってデジカメを大吾に渡す。

「ったく、しゃーねぇな」

そう言いながら、仕方ないという様子でこちらにカメラを向けてくる。

「そうじゃなくて、景色を撮ってよ」

「は?」


大吾はカメラが好きだった。

大学生になってからハマっていた。

バイトをして一眼レフのカメラを買ってたくさんの写真を撮っていたのをよく覚えている。

デートの度に写真を撮るのを待たないといけなくて、イライラしたこともあった。

ごめんと言いながら、綺麗な写真が取れる度に嬉しそうに私の携帯にたくさん送ってくれた。

その写真は今もスマホの中で眠っている。


「自分で撮れよ」

「大吾が撮った写真を見たいんだよね」

「なんだよ、それ」

そう言いながら、カメラを構える。


パシャっと撮って一枚で終わるかと思ったら、かがんで視点を変えて撮影をしていく。

少し経って、夢中で写真を撮っていたことに気づいたのか恥ずかしそうに「撮ってやったぞ」とカメラを差し出してきた。


「ありがとう」

一緒にいると大吾との楽しかった思い出がよみがえってくる。

あの頃の幸せな気落ちになると同時に寂しさもこみあげてくる。


(これは・・・現実じゃないんだよね・・・)


デジカメの写真を見ながら、少し泣きそうになった。

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