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ONE MORE TIME  作者: 月丘 翠
高校生編
5/18

二度目の修学旅行とじゃんけん


大吾とは受験勉強がきっかけで仲良くなり、大学で同じサークルに入った。

サークルでの大吾は誰とも話さず、輪の外にいたり、気づいたら別の場所にいるなんてこともあった。

そのうちにサークル辞めるのかなと思っていたが、辞めることもなく、続けていた。


「そんなんじゃ1人になっちゃうよ?」

一度心配して真剣に話したが、少しの間黙って、すずに背を向けた。


「…じゃん」


「え?何?ちょっと、聞いてる?」


「…お前がいるじゃん」


大吾は小さな声でそう言った。

なんだかその声が可愛らしくて可笑しくて、思わず笑ってしまった。

大吾の正面に回って顔を見ようとすると、大吾は誤魔化すように、タバコを吸った。



「あの時可愛かったなぁ、、」

思い出してなんだか照れてしまう。

今思えばあの時が1番2人でいて楽しくて幸せだったかもしれない。


こんなに大好きだったのに、どうしてあの日私は素直になれなかったんだろう。

後悔しても仕方ないとはわかっている。


今までならただただ後悔するしかなかったが、今は違う。


今の私はやり直しができる。


たとえ夢の中だとしても、もう一度選択し直すことができるのだ。


(絶対自由行動で仲良くなってやる)


「旅行の日に限って…」

空を見上げると、黒い雲が広がり始めている。

今日も曇り空ですぐに雨が降りそうだ。


(京都に着くころには晴れているといいんだけど)


重たい荷物を引きずって、高校へ向かった。


「また後でね」

恵美は手を振って、自分のクラスの輪の中に入っていった。

みんなワイワイと楽しそうに声をあげている。

一生に一度の高校での修学旅行、盛り上がるのは当然かもしれない。

私もきっと昔はそうだったはずなのに、その楽しかった思い出をなぜか思い出せない。


ただ今回やり直して大吾と早く仲良くなるつもりなので、思い出が無くても問題はない。

気合を入れ直して、辺りを見回すが、肝心の大吾だいごがいない。

集合時間まであと5分しかない。


(まさか―)


「ふぁああぁあ」

体育館裏の階段に向かうと、大吾は大きな荷物にもたれながら漫画を読んでいる。


「何してるの?」


呆れながら声をかけると、こちらをちらっと見てまた漫画に視線を戻した。

「もう集合時間だよ」

「・・・めんどくせぇし、休もうかなと思って」

「はぁ?」

バシッと大吾の腕を掴むと、起き上がらせる。


「一生に一度の修学旅行なんだよ?大人になっていきたいと思ってももう修学旅行は出来ないの。めんどくさいとかいってこんなところでうだうだするなんて・・・人と外れたことをするのがカッコいいとでも思ってるの?全然かっこよくないから!」


「べ、別にそんなこと思ってねぇよ」


あまりの剣幕に驚いたのか、大吾は少し声が上ずっている。


「とにかく修学旅行に行かないなんてありえないから!!」

半ば引きずるように強引に校庭まで引きずっていく。


大人になればわかる。

あの頃はどうでもいいと思ってサボったり、真面目に取り組まなかったことこそ、ちゃんとやっておけば良かったと後悔することがある。

京都には大人になってもいけるが、修学旅行としていけるのは今回限りなのだ。

やり直すために大吾に来てもらわないと困るのもあるが、それ以上にそんな後悔を大吾にしてほしくない。


大吾はだるそうにしながらも集合場所にやってきて、なんとか間に合った。

校長の挨拶などを終え、担任に促されて、バスに向かって歩き始める。

バスで駅まで行き新幹線に乗り込む。

新幹線で京都まで向かい、京都駅からはバスで観光を回る予定だ。

京都へ旅行で行ったことがあるが、今回の旅行は少し違う。

斜め後ろを見ると、大吾は眠っている。

こんなにうるさい車内でよく寝れるなと思いながら、思わず口角が上がる。

気合を入れ直すと、ひそかに調べた旅のプランを見直した。


京都に着いたら、雨こそ降っていないが曇っている。

「インスタ映えしないな・・・」

私が思わずそう言うと「インスタ?」とバスで横の席のクラスの子から不思議そうな顔で見られてしまった。

この時代にインスタはない。

携帯もスマホではなかったし、LINEもまだそんなに普及していなかった。

「なんでもない」と誤魔化すと、窓の外を見た。

日本人だけでなく、海外の人までたくさん歩いている。さすが日本一の観光地だ。


「こちらが鹿苑寺、通称金閣寺でございます」

最初の目的地は金閣寺だ。

ガイドさんに連れられて、ゾロゾロと歩く。

鹿苑寺、通称金閣寺は、室町幕府三代目将軍である足利義満が建てたとされている。

金箔が貼られて印象的な舎利殿が有名だ。

『金閣寺放火事件』が起き、一度は焼失したが再建された。


「本当に金だ」

ワーワー騒ぎながら、写真を撮っている。

高校生の感想なんてそんなもんだろう。

でも不思議とこの歳でお寺に行くと、厳かな気持ちになる。

やっぱり私は日本人なんだと思わさせられる。

ふと大吾を見ると、欠伸をしながら近くのベンチに座っている。

全く興味はないと言った様子だ。


この修学旅行で一番厳かな気持ちになったのは、下賀茂神社だ。

下賀茂神社は、本当は賀茂御祖神社という。賀茂建角身命玉依媛命が祀られており、京都の人々の生活を見守る神様として親しまれている。世界遺産としても登録されている京都有数の神社だ。


すぅーっと息を吸って、ぐーっと背伸びをすると気持ちいい。

そんな中でも、だるそうに大吾は歩いている。


「なんだか厳かな気持ちにならない?」

私が問いかけても「は?」という顔をするだけだ。

「ちょっと気持ちがぴしっとしない?」と言ったところで、大吾はまた欠伸をしている。

「もう・・」

私は親から借りたデジカメを取り出すと、パシャっと大口を開けた大吾を撮った。

「な、なんだよ!?」

「さぁ、笑って」

無理やり並んで2人で写真を撮った。

二人で並んで自撮りなんてほとんど撮ったことがない。

付き合っている時も大吾は写真が苦手だ、恥ずかしいと言って、なかなか撮らせてくれなかった。


でもこれは現実じゃない、そう思うと、思い切った行動もできるってものだ。

当時は恥ずかしくてそんなことはできなかったけど、こんな風に自撮りとかしてみたかった。

撮った写真を見直してみると、不服そうな顔をした大吾が写っていた。

それでもなんだか嬉しくて、思わず頬が緩んでしまう。


(青春って感じだな)


そして次は銀閣寺だ。

慈照寺、通称銀閣寺は、室町幕府8代目将軍である足利義政が建立した。銀とついているが、金閣寺と違って銀色ではない。派手ではないが、落ち着いた雰囲気で味のある寺だ。

こちらも世界文化遺産に指定されている。


銀閣寺に着いたころには、大吾は携帯をいじりながら、ただただ前の人に着いて歩いているだけになっていた。

日本人としてもう少し興味をもってもいいのにと思いながら、そんな後ろ姿もパシャっと一枚おさめた。


でも本番はここからなのだ。

今からは自由時間。

清水寺への参道である一年坂、二年坂、三年坂を自由に散策する予定だ。

担任から注意事項が言い渡されると、グループごとに分かれた。

グループ内でも大吾と私、残りの3人となんとなく分かれて歩いている。

大吾のことはやはり怖いと思っているのだろう。

予想通りだ。


「ねぇ、これ好きでしょ?」

私は、みたらし団子を差し出した。

大吾は、見た目が怖いくせに甘党で、特に和菓子に目がないのだ。


大学生の頃、二人でよくケーキを買うか、和菓子を買うかでじゃんけんした。

私が勝つことが多くて、大吾はじゃけんが弱いねとよくからかった。


「べ、別に好きじゃねぇよ」

「じゃあ、じゃんけんで決めよ。私が勝ったら団子食べて。負けたら食べなくていいよ」

「ったく、めんどくせ・・」

「じゃんけん、ぽん!」

強引にじゃんけんをすると、大吾がパーを出した。

「私の勝ち!はい」

団子を差し出すと、大吾は「しゃーねぇな」と言いながら、受け取って団子を口へ放り込んだ。


(じゃんけん、わざと負けてくれた・・・)


さっきじゃんけんをした時、大吾は少し遅れてパーを出した。


もしかして、あの頃もいつも負けてくれていたのだろうか。

大吾が「また負けた」と言って笑っている顔がふと浮かぶ。


横の大吾をみると、わざと不服そうな顔をしながら、だんごをかじっている。


「やっぱり、変わらない・・・」

大吾は、何言ってるんだ?という顔をして、最後の団子を放り込んだ。

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