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ONE MORE TIME  作者: 月丘 翠
高校生編
4/18

やり直したい過去と幸せな過去


「川嶋くん」


私を見るなり、大吾は「またお前かよ」とため息をついた。

大吾はいつもの体育館裏の階段で今日も授業をさぼることに決めていたようだ。


「また私だよ」

そう言って私も階段に座った。


「もうすぐ授業始まるんじゃねぇの?」

大吾に言われて時計を見ると、お昼休みが終わるまであと5分くらいだ。

「そうだね」

「そうだねって、お前は授業サボるタイプじゃねぇだろ?」

「私の何を知ってるの?」

「・・・知らねぇけど、さぼらねぇだろ?普通」

「普通サボらないのに何で大吾くんはさぼるの?」

「それは、勉強が向いてねぇからだよ」

「向き不向きがわかるほど、勉強してないでしょ?」

「・・・お前に何がわかるんだよ」

何もかも知ってる、とは言えるはずもなく、「いいから授業受けようよ」

と声をかけたが、「やだね」と大吾は漫画を読み始めた。

「じゃあ私もここでさぼろうかな」

「は?お前は授業行けよ」

「川嶋君が授業受けるなら受けるよ」

「何の脅しだよ。もう勝手にしろ」

「勝手にするよ」

そう言って私がぼんやり空を眺めていると、午後の授業の開始を告げるチャイムが鳴った。

「・・・」

「・・・」


「おー、川嶋、最近は出席率がいいな」

上機嫌で担任に声をかけられて、「しゃーなしだ」と不服そうに小さな声で大吾は呟いていた。

私はよしよし、と思いながら、授業に真剣に耳を傾けた。


いつまでこの時代にいるかわからない以上、大吾には勉強ができるようになっておいてほしいのだ。

私は高校卒業後に大学へ進学する。

そして大学で大吾と付き合うことになるのだ。

つまり、やり直すためにはまずお互いに大学へ進学しなければならない。

大吾も同じ大学へ進学するので、なんとか今から授業を受けさせておきたいのだ。

私の記憶では夏ごろに大吾は大学進学を決め、勉強を始めていた。そこでたまたま図書館で勉強している私と会って、私がバシバシ勉強を教えるようになり成績が上がり進学できた。

過去と同じ道を辿りたいところだがー


(今のままでは教えるのは無理だ・・・)


もう14年ほど勉強から離れているので当然と言えば当然だ。

とはいえ、一度は理解した内容なのだ。

必死にまとめたノートを眺めながら、毎日勉強すれば何とかなるだろうと前向きに考えることにした。


「ねぇ、修学旅行の準備してる?」

高校から駅までの帰り道。

たくさんの高校生が歩いている。

少し前まで懐かしかったが、この景色にももう慣れてきた。


「修学旅行?」

恵美に修学旅行と言われ、あまりの昔に終えたイベント過ぎてリアクションを取るのに時間がかかってしまった。


「まさか、忘れてたの?」

「いやいや、そんなことはないけど」


慌てて誤魔化したが、修学旅行なんて聞いてない。

確か高校の時の修学旅行は京都だった。

その時どんな感じで過ごしたのか思い出そうとしても、なぜか靄がかかったように思い出せない。


「お泊りの準備、そろそろ始めないと。足りないものを買いに行ったりしないといけないじゃない?」

「うん、そうだね」

私は思い出せない記憶になんだか違和感を感じた。

何とか思い出そうと上の方を見上げると、イヤな黒い雲がこちらに向かって流れてくるのが見えた。


その日からあっという間に梅雨を迎えた。

相変わらず私は2012年を生きている。

雨の日が多いとうんざりしてくる。最初は懐かしい気持ちが強くてなんでも楽しくて、ワクワクしたもんだが、人間というのは慣れてくるもので、今は雨の日に学校に行きたくないとさえ思っている。

濡れた傘を畳むのに手が濡れるのが本当に嫌だ。

2025年なら色々便利なものもあるんだけどなぁ、と思いながら、教室に入った。


珍しく大吾ももう来ていて、音楽を聴きながら漫画を読んでいる。


「おはよう」


音楽で聴こえていないのか返事はない。

思い切ってイヤホンをとってやる。


「な、なんだよ!」

「おはようって言ってるじゃん」

舌打ちすると、「…おはよう、これでいいのか?」と不貞腐れたようにイヤホンを耳につけた。


私がしつこく誘うせいか大吾は授業に出ることが多くなった。

クラスメイトも最初は距離を取っていたようだが、大吾は見た目はヤンキーだが暴れたりもしないし、1人で過ごしているタイプなので、害がないとわかるとみんな存在を気にしなくなった。


ホームルームのチャイムが鳴り、担任が入ってくる。

「おはよう」と挨拶をして、出席を取ると、修学旅行のグループ分けについて話し始めた。

基本的にはクラス単位で動くが、自由時間はグループ行動になるらしい。

そんな感じだったかなと思い出そうとするが、やはり思い出せない。

どんなグループで行動したのかも思い出せないまま、グループ分けのくじを引くこととなった。

一人一人教卓まで行ってくじを引く。

クラスで話せる子はいるけど、恵美ほどの仲良しはいない。

せめて、大吾が同じ班ならー。



5班

永田 実咲

沢口 愛子

美山 すず

町田 健太郎

川嶋 大吾



黒板に書かれた字を見て、思わずはにかんでしまう。

すずは心からくじ運の神に感謝した。


「修学旅行の準備は大丈夫なの?」

家に帰ると母が声をかけてきた。

いよいよ来週は修学旅行だ。

「多分、大丈夫。二泊三日くらい大したことないよ」

「大したことないって家族で一泊二日くらいしかあんた行ったことないでしょう」


30を超えてからよく一人旅に出ていたので、旅行にはかなり慣れている。

1人でアメリカに行った時は少し緊張したが、それでもなんとかなった。

京都なんて国内だし、修学旅行には引率の先生もいるのだから、まるで緊張感などない。


「あぁ、友達と準備してるから」そう言って適当に誤魔化した。


旅行も高校生の時は準備からワクワクしていただろう。

今は旅慣れて、旅立つ前のワクワクもだんだんと減ってる気がする。

何事も慣れてしまうのもよくないなと思いつつ、ベッドで転がりながら、旅のしおりを開いた。


清水寺に金閣寺、嵐山の渡月橋―。


「結構色々回るんだなぁ」

清水寺のあたりで、自由行動があるようだ。

そこで大吾と少し距離を縮められたら、と思っているが、大吾のことだから気づいたらいなくなっていそうだ。


大学生の時もそうだった。

すずは、静かに目を閉じた。

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