絶対離れない
携帯を開くが、センターに問い合わせても返事はない。
「どこに行っちゃったのよ…」
その後大吾にメッセージを送っても、電話をしても連絡はつかなかった。
アルバイトも黙って辞めてしまっていた。
あの頃と全く同じ状況、いや会社が倒産しているのだからもっと悪い状況だと言える。
「ただいま」
いつものように大学に行って、アルバイトをして帰る。
携帯を見ても大吾からの連絡はない。
過去に戻ったのに、結局何もできない自分が嫌になる。
「おかえり」
母は晩御飯のカレーを温めると、すずの前においた。
「最近、何かあった?」
大吾がいなくなった時、あの頃お母さんはもういなかった。
父は理解してくれるとも思えなかったし、妹に相談もなんだかできなかった。
自分1人でぐるぐると考えて、落ち込むしかなかった。
でも今は違うー
母が優しい笑顔でこちらを見ている。
我慢しようと思っても涙があふれて、視界がぼやけていく。
「どうしたの、すず」
そういいながら母は慌ててティッシュを持ってくる。
すずは大吾とのことを母に話した。
「それは辛かったわね・・・」
母は話を聞き終わると、そう言ってすずの頭を撫でた。
「ねぇ、母さんならどうする?もし父さんがいなくなってしまったら」
「そうねぇ・・・」
母はしばらく考えると「探すわね」と言った。
「私を置いていくなんて絶対許せないし、あんた達といる幸せを手放す気なんて一つもないからどんな手を使ってでも地獄の果てまで追いかけて首根っこ捕まえて連れて帰るわ」
父は聞こえているのか地獄の果てと言われたあたりでびくびく肩を震わせていた。
「でも彼はきっとすずの幸せを考えて離れたんだと思う」
それはきっとそうだろう。
大吾はそういう人だ。
「すずはどうしたい?」
「・・・地獄の果てまで追いかける」
母はふっと笑うと、すずを抱きしめて「さすが、我が娘」と言って、またカレーを温め直した。
(大吾を絶対見つける―)
すずは温かいカレーを食べながらパワーがみなぎっているのを感じた。
翌日から大吾を探すため、まずは大学関係の友人から声をかけていった。
同じ学部の友人によると、大吾は大学を休学しているようだ。
退学していないと知り、少しほっとした。
まだ夢は諦めていないのだ。
「あの・・・美山先輩?」
振り返ると、小さな可愛らしい女の子が立っていた。
大吾と二人で楽しそうに話していた後輩だ。
大吾のことで話があるというので、不安な気持ちもあったが構内にあるカフェテリアに向かった。
「川嶋先輩を探しているって聞いたので、お伝えした方がいいんじゃないかと思って」
この後何を言われるのかと考えると心臓に悪い。
大吾と付き合っている・・?
それとも好きだったとか?
想像するだけで、胸が痛い。
「見かけたんですよ、先輩のこと」
「見かけたの?!」
「はい、駅の向こう側で工事やってるじゃないですか?そこで見かけたんです。22時とかだったと思うんですけど、雰囲気も変わってたし、暗かったんで絶対かわかんないですけど」
「そう」
「私、川嶋先輩にお礼言わなきゃいけないことがあって」
「お礼?」
「はい。私カメラサークルの先輩を好きだったんですけど、彼が本当にカメラオタクで、私のレベルじゃ全然ついていけなくて・・・それで悩んでたら川嶋先輩が相談にのってくれて、カメラの知識を色々教えてくれたんです。結局、それは意味なかったんですけど」
そう言って後輩はその時のことを思い出したのか笑った。
「どうして意味なかったの?」
「私と川嶋先輩が一緒にいるのをみて、彼が慌てて告白してきたんですよ。本当はずっと好きだったって。でも何話していいかわからなくてカメラの話ばかりしてたみたいで。だから私が今彼と付き合えているのは川嶋先輩のおかげなんです。だからお礼を言いたくて」
「そうだったの」
あの時も、後輩と仲良くする姿に嫉妬して、理由もきかずに距離をとった。
32になってもやってることは一緒だ。
まったく自分にはあきれてしまう。
後輩と別れると、早速22時に会いに行くことにした。
近くのカフェで22時になるのを静かに待つ。
カップがもう何個も机に並んでいる。
どんな反応をするだろう。
拒絶するだろうか。
プライドの高い大吾のことだから、無視するかもしれない。
それでも諦めるなんてことはできない。
地獄の果てまでどころか、過去にまで戻って追いかけてきたのだから。
22時になり、工事現場に向かうと、車の誘導をしている男が見えた。
後ろ姿だけで、大吾だとわかった。
ゆっくり近づいていく。
一歩近づく度に鼓動が速くなっていく気がする。
「大吾」
大吾がゆっくりと振り返った。
「すず」
「大吾、探したんだよ」
「・・・帰ってくれ」
大吾はそういうと、すずの方を見てもくれない。
「仕事終わるまで待ってるから」
すずはそれだけ言うと、近くのベンチに座った。
春が近くなっているとはいえ、夜は冷える。
それでも離れるわけにはいかない。
大吾をもう見失うわけにはいかないのだ。
どれくらい経っただろう。
寒さと眠気でぼんやりとしてくる。
すると、手に温かいものが置かれた。
薄っすらと目を開けてみると、缶コーヒーが置かれている。
「大吾」
大吾は「こんなとこいたら風邪ひくだろうが、帰れ」そう言って歩き出した。
「帰らないよ!」
すずは立ち上がると、大吾の背中に向かって言った。
「ずっと探してたんだから!勝手にどっか行って、連絡もしないで、どれだけ心配したと思ってんの!」
怒りなのか、悲しみなのか涙が溢れてくる。
「こんな俺といても幸せになんてなれねぇよ」
「勝手に私の幸せを決めないでよ!私は知ってるのよ、あなたのいない人生がどれだけつまらないか」
「何言って・・・」
「うるさい!私の幸せは大吾といることなの!借金だって返してやるわよ!私はこの後それなりの企業に入って、32の時にはそれなりにいい給料もらってんだから!」
「まるで未来を見てきたような言い方だな」
「そうよ。見てきたのよ、未来を。あなたは大学に行き直して建築士の資格を取得して、お父さんの会社を立て直して2代目の社長になるの。世界の大きな橋の建設を担うようになる。そしてその隣には・・・」
すずじゃない、別の可愛らしい女の人が微笑んで立っていた。
「隣にはなんだよ?」
「私が立ってるの!幸せそうに微笑む私がいるの」
そこまで言うと、大吾は「バカじゃねぇの」と言って、去っていった。
大吾の背中が遠ざかっていく。
「大吾・・・」
その瞬間、世界が反転して、視界が真っ暗になった。




