消えゆく未来とこれからの未来
旅行ではいろいろあったなと思いつつ、横を見ると大吾が眠っている。
新幹線で席に座って少ししたら大吾はすぐに眠ってしまった。
旅行でよほど疲れたのだろう。
新幹線の予約を取るのが遅かったこともあり、並びで席をとるのが難しかったため、成瀬は少し離れた席に座っている。
「・・・すず、好きだ」
大吾に言われた言葉を思い出すと、少しニヤついてしまう。
その後本当は可愛く返事をする、つもりだったのだが―
「俺の気持ちは伝えたから」
そう言ってスタスタとオーベルジュに向かって歩き始めた。
返事をするものだと思っていたから、戸惑ってしまい、結局返事をしそびれてしまった。
新幹線で二人になれるからそこで話そうかとも思ったが、これだけぐっすり眠られては話せそうにない。
自分も寝ようかと思ったが、眠れそうにない。
時間もあるし、カメラに手を伸ばす。
今回の旅行で撮った写真を確認してみると、大吾が真剣に星空を撮る後ろ姿が写っている。
「大吾って本当にカメラ好きだよね」
大吾はカメラ撫でながら「そうだな」そう言って、また海に向かってシャッターを切った。
「ねぇ、今度どこかに撮影旅行に行かない?」
「おーいいなー」
「返事する時くらいこっち見てよ」
大吾はファインダーを覗いたまま、「わかった、わかった」と言った。
「まったく夢中になるとこうなんだから」
口を尖らしているすずに気づかず、シャッターを切り続けている。
まだまだ撮影は終わりそうにない。
すずは仕方なく、砂浜に腰を下ろした。
辺りを見回すと、季節は6月で海開きもしていないせいか、誰もいない。
目を閉じて耳を澄ますと、波の音とシャッター音が聞こえる。
「すず」
優しい声がして、顔をあげると大吾が笑ってカメラを差し出している。
「いいのがたくさんとれた」
海を写した写真だが、どの写真もキラキラと太陽が乱反射して綺麗だ。
打ち寄せる波のしぶき、波の形に添って光る曲線、空と太陽の周りに広がる雲が美しい。
「綺麗・・・」
「だろ?」
大吾が満足気にカメラを見て、子供のように笑っている。
「本当にカメラ好きだよね」
すずは少し寂し気に笑った。
「俺は好きなものには熱中するタイプだからな」
そう言って大吾はぽんとすずの頭に手を置いた。
「だから、すずにも熱中してる」
恥ずかしそうににこっと笑うと、「もう1枚撮るか」とカメラを持って海に向かっていく。
カメラを構えた真剣な大吾はかっこいい。
「勝てないな、大吾には」
ポケットから携帯を取り出すと、その後ろ姿をぱしゃっと撮影した。
そこで目が覚めた。
気づいたら眠ってしまったようだ。
大吾は隣でまだ寝息をたてている。
携帯を取り出して、写真フォルダを確認するが、海で撮った大吾の写真はない。
「当り前か・・・」
未来を変えると、記憶に残っている思い出が無くなっていくということだ。
胸の奥が少し痛い気がする。
思わずため息をついた。
「どうした?」
大吾が目を閉じたまま、声をかけてきた。
「別に何もないよ」
「ため息が聞こえた」
「・・・だんだん昔のことって忘れてしまうなって思って」
すずがそういうと、大吾は少し黙って「別にいいんじゃねぇか」といった。
「どれだけ素敵な思い出でも?」
「それを上回るいい思い出を作りゃいい。過去は過去、未来は変えていけるんだからな」
大吾はそう言って少し笑った。
「うん、そうだね」
過去は過去―
大吾はいつだって前を見て、未来をみていた。
過去に縛られて過去まで来てしまった私は大吾にふさわしくないのかもしれない。
「そんな顔するな」
「うん・・・」
そっとすずの手を大吾が包み、再び目を閉じた。
「安心しろ、俺が絶対忘れらない未来にしてやる」
「・・・ありがとう」
すずは大吾の手をぎゅっとにぎった。
旅行から帰ると、また日常に戻っていった。
大吾に告白されて、少し恋人のような過ごし方になるかと思ったが、相変わらずサークルであったり、その帰りにご飯を食べに行く程度だった。
「それはすずが返事してないからじゃないの?」
恵美は大きくイチゴパフェを頬張ると、「おいしいー!」と声を上げた。
久しぶりに恵美に誘われてパフェが美味しいと有名なカフェに来ていた。
恵美に最近大吾とどうかと聞かれて、これまでのことを話すと、はっきりとそう言われた。
「確かに返事はしてないけど」
「大吾ってやんちゃだけど女遊びしてるって感じじゃないし、はっきり言わないとどうしていいかわかんないんじゃない?」
「そっか」
「ちゃんと返事しなよ?」
「うん、次会った時にしてみる」
「で、その成瀬って先輩とは距離おいた方がいいよ」
「え?」
「だって、絶対すずのこと好きじゃん」
「そうかな?」
「そうでしょー。旅行にまでついてくるなんて、絶対変な人だよ」
「すごくいい人だよ?優しいし、頭もいいし」
「でもなぁー、普通ついていかないでしょ。というかなんで旅行の出発時間まで知ってるのよ」
「・・・確かに話した記憶ないな」
「絶対変な人だよ。関わらないようにしなよ」
「でもその人のお姉ちゃんのとこでバイトしてんだよねぇ」
「えっ、そうなの?」
「それ。川嶋知ってるの?」
「うん、話してるよ」
「ふーん」
驚いた表情で、パフェをまた口に運ぶ。
「辞めた方がいいかな?」
「うーん、川嶋が辞めるよう言わないなら様子見かな」
恵美はいたずらっぽく笑った。
「そう?」
すずもパフェを一口頬張った。




