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ONE MORE TIME  作者: 月丘 翠
大学生編
20/29

信じるしかない


「いらっしゃいませー」


旅行代を稼ぐために始めたアルバイトだったが、慣れてきたら楽しくなってくる。

お客さんが多い日ほど回しがいもある。

まかないを遥さんに教わりながら作るのも楽しい。

苦手だった料理がだんだん上手くなってきて、家でも家族にふるまって褒められたりすることもあった。

遥さんは教えるのが上手くて、「センスがいい」「いつか私もぬかれるかも」とすずをおだててくれるので、本当に才能があるのでは?と勘違いしそうになる。

そうやって過ごしている内に一ヶ月が経った。


ディナータイムも終わり、ある程度片付けが終わった段階で手渡しで給料が渡された。

元々旅行代のために一ヶ月だけ働く予定だったので、給与は振込じゃなく、手渡しにしてもらった。おかげで旅行には間に合いそうだ。


「一ヶ月お疲れさまでした」


遥さんにそう言われると、寂しい気持ちになる。

もう少し続けたい気持ちもあるが、一ヶ月だけということで受け入れてくれたのだから、ワガママは言えない。

「ありがとうございます」とぺこりと頭を下げて、制服のエプロンを返却しようと差し出した。

遥さんと武史さんは制服を受け取らずに、椅子に座るように促すと、「このままアルバイトを続けてくれないか」と言ってくれた。

すずからしてもこのまま辞めるのも寂しいし、仕事も楽しくなってきたところだ。

「ぜひお願いします」

すずが了承して頭を下げると、遥さんはぎゅっと抱きしめてきて「さすが我が妹」と嬉しそうに声を上げた。

成瀬は「勝手に妹にするな」と呆れた声を出しながらも「これからもよろしく」とすずに照れくさそうに微笑んだ。


翌日は店が定休日ということもあり、遥さんの提案でお店で歓迎会をやってもらえることになった。

ただのアルバイトにそこまでしなくてもいいのではないかと思ったが、遥さんは何を出すか色々考えているらしく、楽しみにしているようだ。

遥さんの料理は絶品だし、ありがたく歓迎会を開いてもらうことにした。


翌日、お昼すぎに言われた通りにお店に入ると、豪華の料理が並んでいる。


「じゃーん!遥の特製スペシャルランチ!」


サーモンのカルパッチョにカルボナーラ、ピザにピンチョスなどオシャレな料理が並んでいる。


「美味しそう!」

「じゃあ早速乾杯しようか」


武史さんの声で乾杯すると、料理を食べるとやはりどれも美味しい。

さすがプロだ。


「美味しいです!」

「でしょでしょ!あ、そうそう、これこいつが作ったんだよ」

こいつと言われて成瀬は不服そうにしながらも、カルボナーラを取り分けてくれる。

「このカルボナーラですか?先輩、料理できるんですね」


「全然ダメ、すずちゃんの方がよっぽど筋がいいよ。でもすずちゃんがカルボナーラが好きだからって頑張って作ったんだよね」


そうからかう遥さんに「おい!」と怒りながらも、成瀬が照れくさそうに「おいしいかわからないけど」と目を逸らした。


「ありがとうございます」

カルボナーラを取り分けて一口運ぶ。

「美味しい」

「すずちゃんが美味しいって!良かったね、太陽!」

「姉ちゃん、うるせーから」

「そんな言い方ないじゃないの、ねぇ?」

すずに同意を求めながら、成瀬を軽く睨んだ。

「ねぇ、すずちゃん」

「はい」

「すずちゃんは彼氏いるの?」

飲み物を吹き出しそうになるのをこらえて、「え!彼氏ですか?」と聞き返した。

「いるのかなーと思って。もしいないなら、こんな子だけど、弟どうかなって思って」

「いや、それは」


何と返事すればいいのかわからない。

確かに現状彼氏と言われるといないが、将来的には大吾と付き合う予定だ。


どうしようと思っていると、成瀬がため息をついた。


「姉ちゃん、そう言うこと聞くなよ」

「気になったんだもん、いいじゃない」


「ったく!すずちゃんには川嶋大吾っていう彼氏がいるんだよ。わかったら、もう変なこと言ってすずちゃんを困らせるなよ」


「えぇ~彼氏いるの?」

そう言って遥さんは口を尖らせた。


「正しくは大吾は彼氏ではないんですけど・・・」

「彼氏じゃないって言ってるわよ」

「照れ隠しだろ」

「いやーなんていうかそうじゃなくて」

「じゃあその大吾くんってすずちゃんの何なの?お友達?」


大吾は私にとって何になるのだろう。

好きな相手ではある。

でも恋人ではいない。

友人、いや親友と言ったところだろうか。

大吾の顔を思い浮かべて見る。

いつもすずのそばにいてれて、優しく見守ってくれている。

その目は温かくて、そばにいてくれるだけでいつも安心できる。


「大切な人です」


すずがそう答えると、「そっか」と遥さんも納得したようにうなずいた。

「でも彼氏ではないのよね?」

「まぁ、そうですね」

「じゃあ、まだまだ弟にもチャンスがあるってことね。頑張りなさいよ」そう言って遥さんが成瀬の背中を叩くと、成瀬の口からオレンジジュースが盛大に噴き出たのだった。


歓迎会が終わり、電車に揺られていると、前の席に高校生カップルが座った。

まだ付き合い立てなのか距離感が初々しい。

微笑ましく思いながら、窓の外を見た。

大きなオレンジ色の夕日が沈もうとしている。


今日、私にとって大吾は大切な人だと回答した。

大吾と幸せになりたい、そう強く願ったから、きっとこうやって過去に戻ってきている。

だからこそ、あの日、自分の知っている世界の選択ではなく、違う未来に向かって動き出すことを選択した。

未来を変えたくて、写真サークルに入った。

そこで成瀬と出会い、成瀬の姉の店で働くことになった。

料理の腕は上がっているし、それだけで違う未来が待っている気がする。

少なくとも元カレに料理がまずいなんて言われたことはなかったことになっていそうだ。

成瀬も私の知っている過去では会ったことはない。

きっと大学の構内ですれ違ったりはしていたのだろうけど、記憶にはない。

ほんの少し選択を変えるだけで世界が変わっていく。

出会わなかった人と出会えたりするのだ。

変わっていく未来の中で、私は大吾と幸せを掴めるのだろうか。

思わず手をぎゅっと握る。


カップルが照れながら二人で話している。

このカップルだってどんな未来があるかわからない。

このまま結婚してハッピーエンドになんてほとんどがならない。

それはきっと彼らも知っている。

それでも、今は一緒にいる未来を信じて、そばにいるのだ。


「信じるしかないかよね」

自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

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