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ONE MORE TIME  作者: 月丘 翠
大学生編
19/29

大吾と成瀬

「大吾!?」


大吾が疲れたような眠そうな顔をして立っている。

「バイト終わりだ」

大吾は引っ越しバイトをしている。今日も大変だったようだ。

「こんな時間まで何してたんだ?」

「今日からアルバイト始めたんだよ」

「アルバイト?」

「そう、アルバイト。すごく忙しくてさ」

すずは、今日のアルバイトの話をした。

成瀬の姉の店であること、かなり繁盛している店であること、楽しかったこと・・・大吾は成瀬が一緒に働いたという話を聞いて、少し眉毛がぴくりと動いたが、うなずきながら「いいバイトが見つかって良かったな」と言ってくれた。


大吾はいつもうなずきながら話を聞いてくれるので、ついついたくさん話してしまう。

今日もたくさん話している内に、最寄り駅についた。


「じゃあ大吾はこっちでしょ?私はこっちだから」

大吾は駅から近いマンションに住んでいる。

「気をつけてな」

すずはバスに15分くらい揺られて帰る。

しかし残念ながら終バスはさっき出たようだ。

田舎はこういう時に困る。

タクシーにのるお金もない。時計を見ると、23時を指している。

歩いて帰ったら午前様だ。

歩くのもしんどいが、それ以上に母の顔を思い浮かべると恐ろしい。

ため息をつきながら、歩き出すと、後ろから自転車に乗って大吾がやってきた。


「どうしたの?」

「もうバスないだろ?」

「うん、さっき出ちゃったみたいで」

「どうやって帰るんだ?」

「歩いて帰るしかないかな」

「歩いて帰るって結構な距離だぞ」

「それはそうなんだけど…」


「乗れよ」

大吾は自転車の後ろを指差した。

「いいの?」

「早く」

後ろに乗ると、大吾がぐんと漕ぎ始める。

「ありがとう」

「あぁ」

最初は大吾の肩を持っていたがなんとも安定しない。

「ここから少し道ががたがたするから、しっかり捕まっとけよ」


(ここだ―)


勇気を出して後ろから抱きついてみる。

大きくて広い背中から大吾の温かさが伝わってくる。

ぴとっと顔を背中につける。

顔が赤くなっているのが自分でもわかる。

付き合っていたころ、こんな近い距離で一緒にいたことなんて何度も合ったのに、ドキドキが止まらない。自分の心臓の音が大吾にまで伝わっていそうだ。


大吾の顔はどんな顔をしているのだろう。


大吾はくっつく私に何も言わない。

何を話していいかわからず、ぐんぐん自転車が進んでいく。

やがて家の前に着いて、すずが降りると、こっちを見ることなく、「じゃあな」と急いで自転車を漕いで去っていった。

大吾の顔は見えなかったけれど、耳が真っ赤になっているのが見えた。


アルバイトは楽しく続けることができた。

平日も週に2回と週末には入るようにしていた。

本当は毎日でも入りたいところだが、大吾との時間が減れば本末転倒だ。

「ねぇ、すずちゃん、ご飯作ってみない?」

土曜日のランチの時間が終わり、ディナーの準備をしている時だった。

遥さんが厨房から手招きをしている。

「料理ですか」

「まかないだけでいいから作ってみない?料理って楽しいのよ」

「いや、私料理は・・・」


実は料理は苦手だ。

32になった今でも満足に卵焼きも焼けないし、自炊なんてもう何年もしていない。

昔一度彼氏に料理を出したことがあったが、まずいとはっきり言われて以来、自分は料理できないんだと料理することをやめてしまったのだ。

あの頃のことを思い出して少し苦々しい気持ちになった。


「私、料理下手なんですよね」

「まだ若いのに料理下手とか決めつけちゃダメよ。ほら、私が教えてあげるから。ね?」

グイグイと遥に押されて、調理台に立ってみる。

遥さんに言われた通りに野菜を刻み、調味料をかけ、卵とご飯を炒める。

不器用なせいで野菜の大きさはまちまちだが、美味しい匂いがあたりに漂っている。


「はい、これで炒飯できあがり」


ドキドキしながら、武史さんにだしてみる「おいしいよ」とにっこり笑ってくれた。

遥さんの説明が良かったことと特製の調味料でかなり美味しく仕上がっているようだ。

自分でも食べてみると、思わず「美味しい」と言葉がでた。

「料理なんて簡単でしょう?」

「いえ、遥さんが教えるのが上手いだけで。ありがとうございます」

「私こそお礼を言いたいくらい。妹と料理とかてみたかったかったから、嬉しかった。子供の時なんて弟の髪を無理やり結んで妹って言い張っておままごとしてたんだよね」

「遥が強引なのは子供の頃からなんだな」

「今じゃあんなんだけど子供の時は弟は可愛い顔だったのよ。髪を結んでも可愛かったわ」

遥さんは昔を思い出して笑いながら、すずをじっと見つめた。

「もうあの子を妹には出来ないし、本当にすずちゃんが妹になってくれたらなぁ」

「こら、遥。すずちゃんが困ってるだろう」

武史は遥をたしなめたが、「そうよね、ごめんね」と言いつつ、「まぁ少し考えてみてよ」と言って遥はいたずらっぽくウィンクして笑った。


今まで成瀬のことを男性として見たことはない。

成瀬のことを思い出すと、柔和な顔立ちに背が高くてスタイルは抜群で、地味だが優しい性格で先輩からも後輩からも好かれている。

モテてもおかしくない優良物件だ。


「あ、今あの子のこと考えたでしょ?」

遥さんがからかうように言ったタイミングで、成瀬がやってきた。

「何の話してたんだ?」

盛り上がっている私たちを不思議そうな顔で成瀬が見ている。

「別に何もないです」

すずは何となく恥ずかしくて、顔を合わせないようにホールへ出た。

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