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ONE MORE TIME  作者: 月丘 翠
大学生編
18/18

動き始めた関係

腕がほんのりひりひりする。


日焼け止めを塗っておけばよかったと後悔しながら、大学へ向かった。

梅雨が明けると、あっという間に夏になった。

夏の暑さには辟易するが、夏休みまであと少しだと思うと気分があがる。

夏休みになれば大吾との旅行が待っている。


「旅行か」


一人でつぶやいて少し照れてしまう。

鼻歌交じりに講義室へ入ろうとすると、スマホが震えた。

“大吾”と表示されている。

ウキウキ気分でタップしたが、メッセージを読んで一気にテンションが下がった。

「・・・やばい」


大学が終わると、サークルメンバーで集まって次回の撮影場所などを話し合っていたが、頭に入ってこない。

大吾に相談をしようと思ったが、大吾は他の先輩とカメラ談義に花が咲いている様子だ。

ため息をつくと、成瀬が心配そうに声をかけてきた。


「なにかあった?」

「それが・・・」


大吾からのメッセージにはオーベルジュの宿代が書いてあった。

もちろん宿代がかかることはわかっていたのだが、元々は32歳独身でバリバリ働いてたのでその程度のお金は問題ないという認識だった。

だが今は高校生。

ほとんど貯金なんてものはない。

おじいちゃんにもらったお年玉と毎月残るわずかに残るおこづかいを貯めたものくらいしかない。

とにかくアルバイトをするしかないが、今から面接に行って即採用されてやっと給料が間に合うかどうかだ。

成瀬に正直に旅行代がなくてアルバイトがしたいが、いいところが見つからないと話した。

すると、「いいところ紹介するよ」と言って、イタリアンの店の名刺を渡された。

「早めに働きたいでしょ?今週末にここの店行ってみて。人手が足りないって言ってたし、知り合いのお店だから話しておくよ」

「いいんですか!」

「もちろん」

心の中でガッツポーズをしながら、目標金額に向かって頑張ることを心に誓った。

さっそく週末に名刺の店へ向かった。


「レストラン・・・NARUSE」

事前にお店について調べると、リーズナブルなランチから豪華で本格的なディナーまでやっているお店だった。

評判も上々なレストランで,シェフは奥さんでご夫婦でやっているお店らしい。

外観は素朴で植えられている花も綺麗に咲いていて、手入れが行き届いている。


「NARUSEって、親戚かな?」


気にはなったが、アルバイトさせてもらえるならどこでも問題ない。

小さく息を吸うと、少し重たい木の扉をぐっと開けた。


「失礼します」


店内はまだオープン前なので誰もいなくて静かだ。

するとすぐにパタパタと音がして、男性が出てきた。

背がスラリと高く、足も長くて、白いシャツに黒いスラックスというシンプルな服装だが似合っている。

それに対して顔は柔和でタレ目で人が良さそうだ。


「えっと、美山すずさんだよね?太陽くんから聞いてるよ。今日から宜しくね」

「よろしくお願いします」


制服に着替えて、ホールの仕事、レジ打ちなど簡単な内容を教えてもらった。

初日なので基本は周りの動きを見て、出来そうなところからやっていこうと優しく言ってくれた。


「それにしても太陽くんも隅に置けないなぁ~こんな可愛い彼女がいるなんて」

「え!あ、彼女じゃないです。サークルの後輩で」

「そうなの?なんかすごいいい子で仕事もできるはずだしって力説してくるから、彼女だと思ってたよ。かわいい弟が彼女にいい恰好したいんだなと思って、助けてやろうと思ったんだけど違ったか」

「成瀬さんのお兄さんなんですか?」

「あぁ、義理のだけどね。僕の奥さんが太陽くんのお姉さんなんだ」

そこでタイミングよく成瀬の姉が厨房から出てきた。

「あら~可愛いじゃない!あの子がこんな可愛い子とか意外とやるじゃないの」

こちらを可愛いと言ってきたが、成瀬の姉は目が大きく、笑顔になるとえくぼがでて可愛らしい。

それに成瀬より年下に見えるくらい若々しい。


「姉ちゃん!」


成瀬はお店に入って来るなり、「すずさんは恋人じゃないよ。サークルの後輩だって言っただろ?」と慌てて姉を止めてきた。

「そうなの?でもこれからはわからないわよねぇ」

そう言ってこちらに目くばせをしてくるが、どうリアクションしていいかわからず、苦笑いを浮かべるしかなかった。

「私は姉の遥。これからよろしくね」

「よろしくお願いします」

それから成瀬も手伝うと言って制服に着替えたころに、店がオープンした。


ランチは予想以上にかなりのお客さんが来た。

常に満員の状態で、外でもお客さんが並んでいる。

周りの働きをみて動くなんて出来ない。わからないながらも必死に動くしかない。

15時を過ぎたあたりでやっと落ち着いて、16時には一旦閉めて、ディナーの準備にはいる。

その間にまかないが出て、成瀬と成瀬のお兄さんである武史さんとやっとご飯を食べることが出来た。

少し落ち着いたなと思った頃にはディナーのオープンに向けての準備、そしてディナータイムに入ると、一気に予約のお客さんがやってくる。

目の回る忙しさに必死に仕事をこなしていくと、あっという間に閉店時間になった。


「お疲れさん」

遥さんは、肩をポンと叩いてくれた。

「大変だった?平日ならもう少しはマシなんだけど、休日はいつもこんな感じなんだよね」

成瀬も肩を回しながら「疲れた」と漏らした。

「でもなんか楽しかったです」

確かに疲れていたが、忙しい感じも、みんなで協力しながらホール回すのは楽しかった。


就職してからこんなチームで仕事をしているような感覚はなかった。

個々の成果が問われ、お互い助け合うことなく、ライバルとしてみているようなそんな職場だった。

そんな環境にも嫌気がさしていた。


「よかったー!動きがいいし、かわいいし、ぜひ長く続けてほしいなって思ってたから」

「ありがとうございます」

仕事を褒めてもらえるなんて素直に嬉しい。

ある程度年次が経ってからは、先輩に褒められたりすることはなかったので、この照れる感じがなんだか久しぶりの感覚だ。


「じゃあもう遅いから送るよ」

成瀬に言われて時計をみると、22時半になっていた。

二人で並んで歩くと、思ったより成瀬の背が高いことに気づいた。いつもそばにかなり大きい大吾がいるので気づかなかった。

こうやって歩いてみると、一人で歩くより安心感がある。

「最近姉ちゃんの店がすごい繁盛しちゃってさ。近くにあのデカい塔ができたせいでさ」

成瀬が指差す方には青く光る大きな塔が立っている。

日本で一番高い塔で昨年オープンして、今一番人気のスポットだ。

「商売繁盛でいいことじゃないですか」

「まぁそうなんだけどね。そのせいでいつも休みの日は手伝えって言われて、俺の休みはほとんどないんだよなぁ」

「それは災難ですね」

「だから、バイトですずちゃんが入ってくれたら俺も助かる」

「アルバイト楽しかったですし、先輩が楽できるよう頑張ります」


「俺は・・・すずちゃんと一緒に過ごせる時間が増えるのも嬉しい」


「え?」

それに対しての返事はなく、戸惑っている間に駅に着いた。

「えっと、じゃあ、私こっちなんで」

「あぁ。またね」

「はい」そう言って、私は駅のホームへ向かった。

一体どういうつもりなのだろうと考えていると、ツンツンと肩をつつかれた。

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