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ONE MORE TIME  作者: 月丘 翠
大学生編
17/19

戦う令和のお姫様

「この写真いいですね」


成瀬が撮影した写真は、スマホアプリでサークル内に共有された。

写真の評判は上々で、自分が褒められているわけではないのだがモデルとしては悪気はしない。

このことをきっかけにすずはたまに成瀬にモデルを頼まれるようになった。

その都度、大吾は保護者のようについてくる。

ただ何も言わず佇んでいて、まるで忠犬だ。

いつもお礼を伝えると、「別に暇だっただけだ」ぶっきらぼうに答える。


「いつも付き合ってくれるお礼に晩ご飯おごるよ。何食べたい?」

「・・・唐揚げ」

大吾のリクエストに応えるために、定食屋へ向かった。

金曜の夜は人が多い。

まだ19時すぎだというのに、酔っ払って大きな声で話す若者もいる。

自分も今は若いのに思わず元気だなと感心してしまう。

定食屋へ着くと、隅の席に座った。

すずは今日提案してみたいことがあった。


「ねぇ、今度星を撮影しにいかない?」


「星か」

「星空好きなんだよね。綺麗だし、ロマンがあるもん」

おっさんのようなセリフを言ってしまったと後悔したが、大吾は何も思っていないようだ。

「まぁそうだな」

「ほら、これ見てよ」

すずはスマホで検索して星空を画面映した。

「地球以外にこんなに星があって、この中に私達みたいな生命体がいるかもしれないんだよ?めちゃくちゃロマンあるでしょ」

「確かにこれだけ星があったら他の生物もいるかもなぁ」

「でしょ?もしかしたらカメラで宇宙人撮影できるかもしれないよ」

冗談めかしていうと、「何言ってんだ」と呆れたように言って笑った。


「で、場所なんだけど、ここどうかな?」


ドキドキしながらすずは星が見えると有名なスポットと近くのオーベルジュの案内を大吾に渡した。

場所はここから遠くて、夜の撮影など考えれば泊りになる。


すずと大吾の仲は日々の中で少しずつ深まってはいるが、付き合うまでにはいたらない。

前回は、告白らしい告白もなかったので、今回ははっきりと好きだという言葉を聞きたい。

今までならそんな日が来ればいいときっとお姫様のように待ってるだけだったけど、待っているだけじゃいい結果なんて得られない。

令和のお姫様は、自ら剣を取り戦うのだ、今は平成だけど。


(この旅行で、きっと)


大吾は何も言わずに真剣な顔で案内を読んでいる。

「ここに行きたいんだけど、結構遠くてさ」

「そうみたいだな」

「まぁ遠いし、深夜に撮影するから日帰りは厳しいかなーなんて」


まともに大吾の顔がみれない。

耳まで熱くなっている気がする。


「そうだな」


行くのか、イヤなのか、はっきり答えてくれないこの時間が辛い。

はっきり答えてもらうと息を吸った瞬間に唐揚げ定食が運ばれてくる。

タイミングを外して、ため息がでる。

美味しそうな唐揚げの匂いが漂う。

唐揚げを前にお腹が鳴りそうだ。

食べてから聞くしかないかと「いただきます」とすずが言うと、大吾もそれに続いた。


「いただきます。・・・で、ここには何で行くんだ?俺、まだ車の免許ないぞ」

「行くの?!」

「行きたいんだろ?」

「それはそうだけど、泊まりになるよ?」

「俺も星空撮るのに興味はあるしな」

そう言って唐揚げを大きく一口頬張って嬉しそうに「おいしい」と言っている。

「このオーベルジュからすぐ撮影スポットがあるの。オーベルジュまでは駅から送迎もあるみたい」

「なら、問題なさそうだな」


泊まりで行くことには何の抵抗もなさそうだ。

すずのことを女性として意識していないということだろうか。

そう考えると、かなり悲しいが、ここから意識させればいい。

積極的にアピールしなければ…すずは豪快に唐揚げを口へ放り込んだ。


「はぁーお腹いっぱい」

すずはお腹をさすりながら、ご飯のおかわり無料に目がくらんだことを少し後悔した。

店を出ると駅に続く並木道に電飾が施されていて綺麗に光っている。


「綺麗」


すずが思わず見上げると、カシャっと音がした。

振り返ると、大吾がシャッターを切っている。


「な、なに!?」

「別に。ぼんやりした顔してんなと思って」

からかうように笑って、またシャッターを切った。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

慌てて手鏡を取り出して前髪を直していると、大吾がそっと耳元でささやいた。

「泊まりなんて覚悟しとけよ」

大吾はニカっと笑うと、びっくりしているすずに向かってシャッターを切った。


大学の講義が終わって、お昼を食べに行こうとカフェテリアに向かうと、「美山さん」と声をかけられて振り返ると成瀬が立っていた。

「今からお昼?」

「はい」

「あの、川嶋くんは?」

「今日は実験とかで忙しいらしくて」

「じゃあ一緒にいいかな?お昼」

「はい、もちろん」

カフェテリアでいつものパスタセットを頼むと、成瀬と適当に空いている席に座った。

成瀬は白いシャツに黒いジャケット、黒いパンツという出で立ちで、今日はなんだかいつもと服装が違う。

「なんか今日はあるんですか?」

「え?なんで?」

「服がいつもと違うなと思って」

「別に何もないよ。ただまぁなんていうか、イメチェン?的な」

「そうなんですね。いいと思います、似合ってますよ」

「ありがとう」

照れくさそうにして、誤魔化すようにコーヒーを飲むと、成瀬は「美山さんに褒められたらそれだけで・・・」と小さくつぶやいた。

「え?」

「いや、何でもないよ。あのさ、今度また撮影お願いしてもいい?」

「私なんかでよければいいですよ」

「ありがとう。じゃあまた連絡するよ」

そう言うと、成瀬はお昼を食べ終えると、再び構内へ戻っていった。

「誰かに恋でもしてんのかな」

成瀬は不器用だからきっと大変だろうなと想像して苦笑してしまう。


携帯が震えて、メッセージを確認すると、大吾からだ。

“宿、予約出来た”

相変わらず、絵文字も句読点すらない素っ気ないメッセージなのに、愛おしい。

“ありがと”

ハートをつけるか悩んで結局何もつけずに送信ボタンをタップした。

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